第18話 てんとう虫
「魔法のオーラで硬くしたり、はできます」
「鱗に魔力が含まれていたりで硬くなっているのかな、と思ったのだけど」
「メイアもそう思いますです! 鱗が鉄より硬いなんて魔力じゃないかと思うのです」
「鱗が鉄やダイヤより硬くなる。それだけの効果だったから真っ二つにできたんだよ」
「よ、よくわからなくなってしまいましたです」
「順番にいこう」
衝突した時の威力を決めるのは重量と速度だ。
植木鉢くらいの重さの物体でも二階から落として当たれば大怪我をする。
「武器も速く振れば振るほど威力があがる」
「確かにそうですが……硬い鱗に阻まれますます」
「ホバークラウドでぶち当たれば硬かろうが、ナーガを倒せる」
「それは理解できますです。ですが、スライサー? は異なりますよね?」
「うん、スライサーは特殊な機構を持っているんだ」
スライサーは単純な硬さにとても強い。単分子ワイヤーという機構が組み込まれていて、ダイヤモンドだろうがスパッと切ることができる。
対策は容易で単分子ワイヤーのコーティングをするとか、速度を殺すように中空にして中に液体を仕込むなど様々だ。
生物でも構造によっては切れないものもある。ナーガはそうじゃなかったけどね。
「理屈はまるでわからないですが、スゴイことだけはわかりましたます!」
「は、はは……」
宮廷魔術師は大学の教員や研究所のスタッフにあたる職なのかもしれない。
メイアは知識に対する探究心が強く、分からないことはスパッと切り捨て自分なりに解釈できる部分については飲み込みが非常に速い。
これはこういうものだと受け入れるのも同様に。自分の常識外のことを受け入れるのって中々難しいことだと思うのだけど、彼女にはそういった心配はない様子。
俺たちの持っている機械類から技術を盗まれることもまずないし、聞かれたことには答えるようにしよう。
彼女に知っておいてもらえれば使い魔の登録も捗るし、道具と使い魔の境界線を知ることできるからな。
彼女としても知識欲が満たせるわけで、どちらにとっても損はない。
「ホバークラウドは超一級の使い魔ですね! 他の子を見るのが楽しみです」
ホクホクしているメイアに思わず口角が上がる。
「すぐそこにもう一体いるよ」
「こんな遠くに待機させていたんですか」
「見れば何故ここにいたのか分かるよ」
「あ、まさか」
メイアは一見するとポヤポヤとした喋り方でのんびりした子なのかなと思う。しかし、彼女はさすが選ばれし宮廷魔術師の一人で、かなり察しが良い。
俺が待機させていた乗り物……いや使い魔がどのようなものなのか分かったようだ。
ホバークラウドを停車させたまま、繁みに入る。
「スパランツァーニ」
「ここに隠されているのですか? ちょ、ちょっと待ってくださいます」
スパランツァーニへ呼びかけるとメイアが待ったをかけた。
杖を前に突き出した彼女がにへえと笑う。
「ずっと見せてもらってばかりですので、メイアからもお見せしたいです」
「魔法か!」
「はいですます」
「是非見たい」
「た、大した魔法ではないのですが、きっと『見える』と思いますです」
緩んだ顔が真剣なものに変わり、彼女が杖を振るい言葉を紡ぐ。
「メイアの名において念じます。ピンククラウド」
名前の通りピンク色の雲が出現し、周囲を包み込む。
すると、ぽっかり色がついていないところが露わになる。
「あの場所に隠されているはずです」
「なるほど。見えないから見えるんだな」
「そうです!」と得意気に八重歯を見せるメイア。
色のついていない箇所を見ることで隠された機体がどのようなものか大体わかる。
メイアは目をキラキラさせながら、形からどのような使い魔なのか想像しワクワクしている様子。
ずんぐりとした形で彼女はどのようなものを思い描いたのだろうか?
「何でしょうか。円盤のような、虫型の何かでしょうか」
「惜しい。じゃあ、姿を出すよ。スパランツァーニ」
メイアにも分かるようにの演出なのか、指をパチリと鳴らす。
すると円形のずんぐりとした機体が姿を現した。
黄色に黒色の円形の斑点といったカラーリングに球体を半分に切ったような形。
前方は窓になっていて中から周囲を見渡すことができる。直径15メートルと中々の巨体である。
「この子もホバークラウドのように浮いて動くのですか?」
「浮くは浮くけど、少し違うかな」
「なんてお名前なんですます?」
「こいつはレディスカイ、通称てんとう虫。てんとう虫は魔王国にもいるのかな?」
「見たことありません! 南の国にはいるのかもしれませんます」
見た目は巨大な黄色タイプのてんとう虫そのものでレディスカイという名称も、てんとう虫の英語名からもじってつけられたものなんだ。
それならもう、てんとう虫にすりゃいいのにと思ったり。
手をかざすとてんとう虫の翅が上にあがり、中に入ることができるようになる。
おっかなびっくりのメイアの手を引き、てんとう虫の中へ入った。
「では、発進します」
この機体にはコクピットはない。前方の窓の前に三人がけくらいの大きさのソファーがあり、操縦関連の計器類は一切ない。
速度メーターも無ければ、レーダー表示盤も高度メーターも、何も無いのである。
何も見ずに、そもそも操縦系統が一切ないのに動かすことができるのか? 答えはイエスなのだが、スパランツァーニに操縦してもらうか自動操縦で進んでもらうかになる。
声をかけるだけで動いてくれて便利ではあるが、目的地を設定しない場合は使い勝手が悪い。
今は拠点に戻る、だけなので自動操縦でも問題ない。
表示系は脳内のナノマシンにてんとう虫からデータを送信することでナノマシンから網膜へ表示することが可能だ。
てんとう虫を動かすには登録した者のみとなるのだが、登録したとしても魔王国の者が動かすには自動操縦に頼るしかない。
何かあった時、計器類を表示する術がないのでナノマシン無しで動かすのなんて俺はごめんだけどさ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます