第24話 孤島での休息〜その9〜


 参加者の間で今、肉を欲している。

 だが、そもそもこの孤島では肉を手に入れることは難しい。


「そうだ。この間、この孤島を探索した時にイノシシを見かけたんだ」


 思い付いたように俺は言う。


「イノシシ?」

「あぁ、もしかしたら野生の動物が生息していると思う。それを捕まえれば肉にありつけるんじゃないかな? 捕獲用の罠とかなら安く物々交換ができると思うんだ」

「まぁ、それなら手軽に肉を手に入れることが出来ますね。それでいいんじゃないですか? 五和ちゃん」


 甘栗が垣根にそう振ると垣根は難しい表情を浮かべた。


「捕獲して食べるってことでしょ? 確かにそれなら肉に手が届くかもしれないけど、それって捌くってことだよね?」


 それを言った途端、一同無言になった。


「無理無理! 私、捌けないよ?」

「私も無理! やったことないもん」

「私、出来るかも」


 そう言ったのは椎羅である。全員が注目した。


「実際にやったことないけど、そう言う動画や本なら見たことある」

「またそれですか。信用できるの?」

「まぁ、やってみないことにはなんとも」

「そ、それは捕獲した後で考えましょう。今は方法とか考えましょう」


 甘栗がそのように指揮をとり、漂流物で捕獲用のトラバサミやロープなどを物々交換で入手する。

 半日程度で道具を手に入れて罠を仕掛けた。


「餌は物々交換で手に入れたフルーツですけど、うまくいきますかね?」

「まぁ、後は時間を置いて罠に掛かっていることを信じよう」


 罠を仕掛けて数時間後のことである。

 皆で仕掛けた罠に向かう。


「あ、見てください! 何か掛かっています」


 一早く栗見は気付いた。

 近づいていくとそこには丸々と太ったイノシシが掛かっていた。

 右足がトラバサミに食い込んで身動きが取れない状況だった。


「やった! これで焼肉が出来る!」

「それはいいけど、まだ生きているよ。どうするの?」


 イノシシは興奮状態で俺たちを見ると更に暴れ出す。

 とても手が付けられない。


「俺がるよ!」


 俺は皆より一歩前に踏み出した。


「白鉄さん。危ないですよ」

「ここは男の俺に任せてくれ。危険だから皆は離れて」


 相手は無抵抗のイノシシ。

 俺はイノシシの後ろに回ってタオルで目元を隠す。

 そのままガムテープでイノシシの視界を完全に奪った。

「ブヒヒヒイイイィィィ!」と何が起こったか分からないイノシシは雄叫びのような悲鳴を上げる。

 そのまま俺は両手足をガムテームで縛り、完全に無抵抗な状態にする。

 ジタバタするが視力を奪われ、手足を縛られたらもう何も出来ない。


「とりあえずコテージの近くまで運ぼう。米津、手伝ってくれるか?」

「あ、うん」


 棒をイノシシの手足に通して両端を持って運ぶ。

 そしてコテージの近くに来てイノシシを降ろした。


「よし。るか」


 ナイフをキッチンから取って来た俺はイノシシに向かう。


「私も手伝います」

「ありがとう。椎羅。抑えてくれるか」

 俺と椎羅でイノシシの解体をしようとした時である。

「あ、あの。私にも手伝わせて貰えませんか?」


 そう言ったのは垣根である。


「無理しなくていいよ。俺たちでやっておくから休んでいてくれ」

「無理とかじゃなくて今後のために経験しておきたいの。殺すって感覚を」


 垣根から強い意志を感じた。


「分かった。じゃ、お願いしようかな」


 垣根も解体作業に加わり、悪戦苦闘しながら作業を進めた。

 慣れない作業なこともあり、かなりの疲労感だった。

 だが、そのかいもあり、なんとか肉にすることに成功した。


「やった! これで焼肉が出来る!」


 垣根は満足そうにウキウキしていた。


「終わったようですね。バーベキューの準備できていますよ」


 頃合いを見たかのように栗見はトングも手に持ち現れた。


「準備いいね。百仁華! もうお腹ペコペコ」


 下準備だけでも半日以上掛かってしまった。

 だが、これくらい時間を掛けても価値があるものだと思う。

 藍華に野生のイノシシを連れて来てもらい、解体方法を常時無線で聴きながら作業を行なっていた。

 何故、そこまでするか。


「白鉄さん! 肉、焼きあがりましたよ! 食べてください!」

「あぁ、今いく!」


 全員でコンロを囲み、肉を貪る。

 この他愛のない時間が皆を笑顔にしていた。

 そう、俺はこの光景が見たかっただけなのかもしれない。

 そして、片付け作業の時である。

 俺と垣根が二人きりになった時。


「今日はありがとう。最初、頼りない人かと思ったけど意外と頼りになってビックリしちゃった」

「それはどうも」


 褒めているのか貶しているのか分からない発言に俺は素っ気なく返事をしてしまう。


「でもさ、やりたいことリスト。結構、達成できたんだよね。これも阿久弥のおかげだよ。ありがとうね」

「あぁ、如何いたしまして」

「でも残り少ない時間で全部を達成させるのは難しいな」

「そのためにも生き残らない……とな」

「うん。ねぇ、片付けが終わったら少しいい? やりたいことリストでもう一つ達成させたいことがあるんだよね」


 え? それってまさか【エッチをしてみる】ってやつなのか?

 俺はゴクリと固唾を吞む。

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