第22話 孤島での休息〜その7〜
栗見百仁華と二人で話してからと言うもの。
栗見からのボディタッチが増えた気がする。
最初はさりげなく触れる程度だが、最近は積極性を感じる。
唯一の男性参加者ということもあり、誘惑をしているのかもしれない。
俺はただ平穏に暮らしたいだけなのによからぬ方向になることは避けたい。
だが、孤島での生活も二週間が過ぎ、参加者同士の仲は良くなっていると感じる。一人を除いて。
「椎羅。一緒に奥の方へ探索しないか? まだ見ていない方に物々交換できそうな物があるかもしれないから」
「別に構いませんけど」
米津は筋トレ。垣根は昼寝。栗見はコテージ内の家事でそれぞれ忙しそうにしている。
椎羅は特に何かしている訳ではなく海を見ているところ声を掛けた。
山奥の方に向かって歩いている道中、他愛のない感じで質問を投げかける。
「椎羅。他の子と馴染めていないようだけど」
「白鉄さんはファーストステージを見ていないから分からないかもしれないですが、私、あの子達に酷いことを言ったんです」
あぁ、利用するために助けたってやつか。
俺は知らないことになっているから聞いた。
「酷いこと?」
「私は効率重視で目先の利益を求めるタイプ。他人がどうなろうと関係ない。利用して使えなくなったら切り捨てる。あの子たちは私の手駒でしかない」
確かにそんなことを言っていたけど、この孤島での生活を通して少しは考え方が変わったかと思ったけどそんなこともなかった。
椎羅の参加者リストには確かそれをきっかけに孤立したと書かれていた。
それに椎羅は片親で母子家庭として育てられた。
皮肉にも損するタイプの母親を見て利益重視の性格になったと予想できる。
そんな母親は借金を残して自殺した。
椎羅も母親と同じ運命を辿ろうと自殺を試みたが、失敗に終わった。
それが引き金となって椎羅はこのデスゲームの参加者として連れてこられた。
文章ではこんなところだが、実際のストーリーは残酷だったに違いない。
人を信じられないという感情が強く出ているのかもしれない。
「椎羅は生き残って何か成し遂げたいことってあるのか?」
「成し遂げたいこと……か。そうね、私を馬鹿にしてきた人を見返してやりたいかな。手始めに同窓会を装って一箇所に集めたところに放火するのもいいかもね」
不敵な笑みを浮かべて椎羅は言う。
それは復讐というやつだろうか。生き延びたとして殺人犯に変貌するなら俺としてはデスゲームで消さなければならないかもしれない。
椎羅の事情を知りたいようで知るのが怖い。
「あなたは無いの? 世の中に対する不満は?」
「無いことも無いけど、誰かを傷つけたいとかそういう感情は湧かないかな」
「緩いわね。あなたは損するタイプ。一生誰かの養分として生きることになるんじゃない?」
嫌味のように言う椎羅に俺は悔しいと言う気持ちにはならなかった。
それよりも椎羅が心配になってしまう。
「椎羅。お前は可哀想なやつだよ」
「可哀想?」
「お前は悪くない。環境が悪かっただけでその結果、思いもよらならい感情まで持ってしまった。復讐なんてくだらないことの先に何がある? やり遂げたらスッキリするのか?」
「あなたに私の何が分かるの? 私は復讐を果たすことで報われる。神様は私にそう使命を与えたの。それが私にとって最高の幸せ」
「違う。そんな幸せを望んでいるなら俺が今、この場でお前を殺してやる」
「口先だけで簡単に言わないで」
「いいや! 殺せるね。お前を野放しにして犠牲が出るなら俺が止めてやる」
「だったら今、ここで私を殺してみなさいよ。ほら!」
椎羅と取っ組み合いになった俺は身を盾にしながら崖側に行く。
椎羅は俺の腕を強く持ち、身体を委ねた。
俺が手を離すと椎羅は崖から転落する状況になっていた。
「ほら。私を殺したいなら今すぐこの手を離してみなさいよ。殺したいんでしょ?」
挑発とも言える椎羅の発言に俺はグッと手に力が込み上がる。
そして俺は椎羅の身体を自分の方へ寄せて崖側から安全な場所へ突き飛ばす。
「なんだ。結局できないじゃない。所詮、口先だけじゃない。情けない」
「椎羅。お前は何も分かっていない」
「……何が言いたいの?」
「確かにお前を殺すことは赤子の手をひねるくらい簡単だ。だが、結局殺したところで何も変わらない。椎羅は復讐がしたいわけじゃない」
「はぁ? 私は復讐しか望んでいない」
「いや、違う。お前は誰かに愛されたかったんじゃないのか?」
「愛……され……?」
「そうさ。自分を認められたい。理解してほしい。そう言う思いが報われず今に来ている。だからさ、そう言う相手を見つけられたらきっと変われると思う。再スタートできるはずだ」
「でも……そんな相手いないし」
「ここの参加者がいるじゃないか。俺もその一人だ。俺は椎羅のことを理解してあげたい。なんでも話してほしい。全部は難しいかもしれないけど、話せる相手がいるのといないのでは全然変わってくると思わないか?」
俺がそう言うと椎羅はその場で崩れ落ちた。
「う、うああああああああああああああああぁぁぁ!」
ここに来て椎羅は初めて涙を見せた。
これまでの人生、そしてこのデスゲーム中の溜めてきた感情が溢れ出したように椎羅は大粒の涙を溢した。
泣き止むまで俺は椎羅のそばを離れなかった。
「お! 椎羅、あそこ!」
俺はあるものを発見して駆け寄った。
そう、そこには水辺になっていた。雨水が溜まった場所である。
「魚もいるし、ろ過すれば飲み水になるかもしれないな」
少し浮かれた様子でいると椎羅は腰を上げて俺の方へ近づいた。
「えい!」
椎羅に背中を押されて俺は水浸しになってしまう。
「おい、椎羅。何を……」
すると椎羅は自ら水に飛び込んで行く。
バッシャーンと水しぶきを上げてずぶ濡れだ。
「証拠隠滅」
「へ?」
「泣いていたことは内緒だからね。それよりありがとう。あなたに言われなかったら私、落ちぶれていたかも」
「それは何よりだよ」
その後、椎羅と子供のように水遊びをして魚を捉えてコテージに戻った。
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