第23話 孤島での休息〜その8〜


 孤島での生活から三週間が過ぎた。

 俺は定期的に藍華と連絡を取り合っていた。


「黒鉄様。セカンドステージの準備は大方完了しました。いつでも参加者を迎えられる準備は出来ております」

「そ、そうか……」

「……? 何か不満でも?」

「いや、そう言うわけじゃないけど。セカンドステージの開催をもう少し先延ばしにすることって……」

「出来なくもないですけど、それは仕方がない事情がない限り難しいです。スポンサーだって待たせているんです。あまり先延ばしにすると展開も忘れますし、スポンサー離れになったら最悪ですよ」

「そ、そうだよな。悪い」


 俺はそう言って少し頭に引っ掛かる。


「なぁ、藍華さん。仕方がない事情があれば先延ばしにすることは出来るってことだよな?」

「そうですね」

「そっか、そっか。なるほど」


 意味深な頷きに藍華は俺の意図が掴めていない様子だった。


「藍華さん。セカンドステージは一週間後。予定通り開催してくれ。それと開催予告をスポンサーにする時なんだけど」と、俺は藍華に頼み事をする。

「デスゲームとは全く関係ないですけど、それをする意味はあるんですか?」

「やる、やらないで言えばやった方がマシだと思ってさ。参加者をよく知ってもらうためにはアリだと思うんだ」

「そうですか。分かりました。段取りしておきます」


 セカンドステージの開催が決まり、開催に向けて動き出す。

 その情報はスポンサーだけではなく参加者にも伝えられることとなった。


「ねぇ、見て。朝起きたらドアの前にこんなものが!」


 米津は慌ただしい様子で皆のいるリビングに駆け寄る。

 それは一枚の紙である。そこにはこう書かれている。


【デスゲームセカンドステージを七日後に開催する。当日の朝九時にエレベーター前に集合すること。遅刻した場合は連帯責任で全員を処刑する】


 新聞の切り抜きをペタペタと貼られた文字にはそう書かれている。


「セカンドステージ。いよいよ始まりますね」

「あぁ、この平穏な生活も残り一週間か。あっという間だな」

「まぁ、遅かれ早かれって感じね」

 予告の紙を見た栗見、垣根、椎羅は特に驚いた様子を見せず分かっていたことを知られたと言う感じである。

「白鉄さんも気を引き締めてくださいね」

「あ、あぁ。そうだね」


 自分で選択したとは言え、一人二役。やっていけるだろうか。


「そうだ。残り一週間分の食料は足りるでしょうか」

「あ、私も手伝うよ」


 甘栗と米津はキッチンの方へ行き、食材の確認に向かう。

 一方、垣根は紙とペンを持って悩んでいる様子だった。


「何をしているんだ?」

「やりたいことリストです。残り一週間をどう過ごすか真剣に悩んでいるところです」


 横目で俺は何が書かれているか覗く。

 十二時間以上、睡眠を取る。長湯をする。バク転を習得する。折り紙をする。

 七海に五十メートル走で勝つ。美味しいものを食べる。

 など、他愛のないどうでもいいことから絶対に無理というものまで書かれていた。そんな中に気になる文面が目に飛び込んだ。


【エッチをしてみる】である。


「あ! 何、覗き見しているんですか!」


 垣根は手でリスト表を隠した。


「あ、いや。見てない。少しだけだよ」

「見ているじゃないですか!」

「ご、ごめん。つい出来心で。それ、全部一週間でするつもり?」

「やるもん」と垣根はそっぽを向きながら言う。


 エッチって誰と? 男は俺しかいないから必然的にそうなるのか?

 いや、エッチは別に女同士でもできるはずだ。

 うん。きっと俺以外のやろうとしているのだろう。

 俺はそう思い込んでいた。

 食材の確認を終えた栗見と米津は報告した。


「贅沢は出来ませんけど、一週間ならなんとか足りると思います。残りは各々過ごしたいように過ごすって言うことで……」

「嫌だ」

 栗見の発言に対して垣根は否定する。

「五和ちゃん?」

「私、高級な牛肉で焼肉したい」

「や、焼肉ってそんなもの無いよ?」

「だから物々交換で調達しよう」

「んー。高級は愚か、牛肉なんてなんてなかなか交換できるわけじゃないし、今回は諦めた方が……」

「最後の晩餐になるかもしれないのに最後くらい好きなものを食べたい!」


 垣根の譲らない発言に一同、言い返せなくなった。

 意外と自我が強いタイプなのだろうか。ここだけは絶対に譲らないと言う思いが出ていた。


「食べたいのはいいけど、私たちを巻き込まないでよ。そんなのに無駄な体力を使うのはちょっと違うんじゃないかな?」


 米津は否定的な意見を述べた。


「七海。あなた、健康志向で食事にはいつも気を使っているそうね。タンパク質が最近足りていないんじゃない?」

「そ、それはまぁ。そうかもしれないけど」

「デスゲームではきっと体力が必要になってくるはず。タンパク質が不足していると死のリスクが上がるかもしれないよ。体力を付けるためにはしっかりとした食事が欠かせないんじゃないな?」


 垣根の発言で米津は込み上がる感情が見えた気がする。


「皆! 肉よ。私たちには肉が必要よ。協力して肉を何が何でも確保しようではないか!」


 米津の灯芯に火が付いた。垣根の味方となり肉を求める。


「確かにお肉食べていないから食べたい気はあるけど」

「体力を付けるために肉を食らうのは一理ある」


 引き込まれるように甘栗、椎羅共に二人に同意する。

 肉か。用意させるのは簡単かもしれないけど、どのように参加者の元へ届けるべきか。

 物々交換? 借金? いや、この短時間で肉に変える手段となると難しい。

 けど、この空気を壊したくないと常々思う。

 そう言えばこの孤島って動物はいるのだろうか。

 高級肉は無理かもしれないけど、肉を手に入れることはなんとかなるかもしれない。そう思って藍華に相談することにした。

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