第21話 孤島での休息〜その6〜


 夜の個室で各々過ごしている時である。

 夕食を終えて入浴も済まし、後は寝るだけと言うまったりした時間でのこと。

 部屋の扉をノックされた。


「はい。どうぞ」


 俺がそう返事をすると部屋に栗見百仁華が入って来た。


「あ、あの。少しだけお話しよろしいでしょうか」

「うん。皆は?」

「もうおやすみになられましたよ。隣、いいですか?」

「どうぞ」


 栗見は俺の座るベッドの横に腰を下ろした。

 孤島で生活をするようになって栗見とまともに話したことがない。

 そもそも俺自身が皆と距離を取っていたからかもしれない。


「すみません。急に押しかけてしまって」

「いえ。それより何か用?」

「特に用ってわけじゃないのですが、少しお話ししたい気分だったんです。白鉄さんと」

「そう……なんだ」

「白鉄さんってここに来る前は何をされていたんですか?」

「えっと、とある企業の事務員だよ」

「事務員さんですか。いいですね。私も将来は事務員として気楽に働くのもいいかなって思っていました」

「そんないいものじゃないよ。社員の雑用がメインだし拘束時間は長いしずっと座りっぱなしも結構しんどいから」

 俺は自分の嫌な経験を思い出しながら言っていた。

「何か仕事で嫌なことでもありましたか?」

「まぁ、それなりに」


 嫌なことがありすぎて殺されそうになっているなんて絶対に言えなかった。


「ここにいる人たちはデスゲームをする前は嫌な経験があったと思います。私もそうですけど、誰もそれについて話そうともしません。それはある意味優しさかもしれませんね。私の主観ですけど、デスゲームの参加者っていうのは社会の不適合者が集められた人たちだと思うんです。だからデスゲームを勝ち抜いたとしてもその先にある生活は昔の嫌な思い出と変わらない。私は不安なんです。このまま生きることに意味はあるのかなって。結局生きても誰にも愛されない人生になることは見えているのに無駄に足掻いてバカみたいって思っちゃうんです。私、変ですよね?」


 栗見は俺と目を合わせないまま思い返すような口振りで言う。

 そう、デスゲーム参加者は辛い過去があってこそ集められた人だ。

 それぞれが事情を持っている。俺は参加者リストしか見ていないが、そこに書かれていない深い事情があるはずだ。栗見の言う意味はなんとなくわかっているつもりだった。


「変じゃないよ。生きる意味があるかないかって言うと難しいかもしれないけど、死にたくないって少しでも思ったのならそれは生きたいってことじゃないかな?」


 そう言うと栗見は真顔で俺を見た。


「そうですね。私、生きたいとは思わなかったけど、死にたくないって思っているのかもしれません。なんだか気持ちがスッとしました。ありがとうございます。白鉄さん」


 笑顔を向けて栗見は言った。

 なんだ。悪い評判を聞いた直後だったからどうかと思ったけど、良い子なのかもしれない。そう思った。


「ところで白鉄さん。こんなことを言うのもどうかと思うんですけど、一つお願いがあるんです」

「お願い?」

「セカンドステージについてです」


 急に甘栗は真顔に切り替わる。


「現状、いつ開催するかどのようなゲームになるか。全く情報がないのでなんとも言えませんけど、ゲームが始まったら私と仲間になってくれませんか?」

「仲間?」

「はい。つまり生き残るために協力し合うパートナーになってほしいんです」

「パートナーって言われてもどうして俺と?」

「正直、他の三人とは心から信用できるとは言い切れません。きっとセカンドステージからは敵対する関係になると思います。だから私とパートナーを組んで他の三人を出し抜きましょう」


 俺は栗見からパートナーを持ち掛けられた。

 つまり、他の三人を裏切れってことになる。そう言う約束事はルール違反ではないが、ゲームマスターとして特別扱いすることは出来ない。


「勿論、タダとは言いません。白鉄さんにとって大きなメリットがあります」

「メリット?」


 すると栗見は上着を脱いで下着姿になった。


「ちょ、何を脱いでいるの?」

「もしパートナーになってくれるならこの身体、好きにしていいです」

「え?」

「よく見てください。私、意外と胸は大きい方なんですよ」

「いや、だからと言って困るよ」

「どうしてですか? 前借りで今、この場でしても良いですよ。これ以上、何を求めるって言うんですか?」

「いや、求めるとかそう言うわけじゃなくて俺は純粋に皆でゲームをクリアしたいんだ。誰かを犠牲にするとか誰かを特別扱いするとかそう言うことはしたくない。別にパートナーにならなくても全員で協力し合えばそれでいいんじゃないかな?」


 納得してもらえただろうかと栗見の顔をチラリと見るが、見下すような冷めた目をしていた。


「そうですか。なら交渉決裂ですね」


 栗見は脱いだ上着を着た。ただ、思い通りにならず少し腹ただしい空気が伝わってきた。


「あの、栗見……さん?」

「ありえないって思っていたんですけど、もしかして白鉄さんって二回目ですか?」

「へ? 二回目?」

「デスゲーム。前回の生き残り者で今回二回目の参加ってことです」

「いや、無い無い。ありえないよ。二回目も何も俺は今回初参加だよ?」

「本当ですか?」


 違う報告に疑ってくれたが、これはこれで少し面倒だった。


「本当の本当」

「でも指揮をしたり、慣れた様子がありましたけど?」


 それは俺がゲームマスターだからだとは死んでも言えない。


「あれだよ。俺、高校の時にバスケ部でキャプテンをしていたからその影響だと思うよ」


 本当は補欠だったが、それは口が裂けても言えない。


「白鉄さんがバスケ部のキャプテン? 全然イメージありませんね」


 栗見の疑いはヒートアップした。

 色々鎌をかけられたりされたが、なんとか誤魔化してその場をやり過ごした。 

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