第12話 ファーストステージ〜地下迷宮〜その5


「しまった!」


 順調に脱出に向けて歩いていた椎羅だったが、ここに来て動きを止める。

 壁が動いて通路が変わってしまった。それにより知っている脱出路が絶たれてしまった。


「な、何? 壁が動いた」

「これってもしかしてゲームマスターの仕業じゃない?」


 椎羅の後ろを歩いていた米津と垣根は事態の深刻化を呟いた。


「千穂李ちゃん。もしかして今ので分からなくなっちゃった?」


 栗見の呼びかけに椎羅は頷く。


「どうするのよ! また振り戻しに戻ったってこと?」


 垣根が嘆く一方、米津は椎羅に聞いた。


「ねぇ、そもそもどうしてあなたはゴールを知っているの? 何か根拠があったから進んでいたんでしょ?」


 その問いに栗見と垣根がそういえばと気付く。


「……一回、ここ脱出したから」

「え? どういうこと?」


 事情を聞いた三人は驚愕する。


「じゃ、アナウンスで聞こえたゲームクリアって千穂李ちゃんのことだったの?」

「なんでクリアしたのにまた引き返して来たの?」

「全く意味不明なんだけど」


 三人から責められる椎羅はうるさいと言った感じで耳を塞いでしまう。

 そのまま椎羅はその場に蹲み込んでしまった。


「……っ!」

「え? 何?」


 椎羅は何かを呟いたが、その声は聞こえない。


「私は! あなたたちを利用しようとしたの!」


 唐突の大声に三人は怯む。というよりその内容に困惑していた。


「どういう意味?」

「これはファーストステージ。ゲームマスターはそう言った。つまりセカンドステージ、サードステージとこのデスゲームは続く。終わりの見えないこのゲームを続けるためには利用できる相手が必要。私は自分が危ない場面に出くわしたらあなたたちを身代わりに自分だけ生き残ろうと思った」


 自分の思いを吐き出した椎羅に垣根は目を見開きながら言い放った。


「ほら! やっぱりこいつ私達を切り捨てようと思ったんだよ。信用するなんて間違っている!」


 最もな意見だが、栗見は椎羅に手を差し伸べた。


「一緒に脱出しよう。ね?」

「何で私に構うの?」

「生き残りたいって思うのは皆、同じ。もし私も誰かを犠牲に出来て生き残れるならそうするかもしれない。だから千穂李ちゃんの気持ちは何となく分かるかな」

「あなた、本気?」

「一度死にかけたこの命。千穂李ちゃんに利用されるなら文句は言えないよ。誰だって死にたくないよ。それは素直で居ていいと思う。だから一緒に脱出しよう」

「…………」

「二人もいいよね? 一人より誰かと協力し合う方が生き残る可能性は高い。だから私達で協力しようよ」

「協力って都合が悪くなったら裏切るってことでしょ? そんなのありえないんだけど」と垣根は反対の意見を言う。

「私は賛成。要は少しでも自分の生き残る可能性を上げるための同盟ってことでしょ? 一人よりかはいいかな」

「七海。あなた本気で言っているの?」

「五和。あなたは一人でゲームをクリアできると思う? 出来るなら一匹狼でもいいと思うけど」

「……都合が悪くなって裏切っても文句言わないでよ」

「決まりだね。じゃ、この四人で脱出ゲームの攻略だ!」


 栗見は無理やり三人の手を重ねる。四人の同盟が結成された。


「意外な展開になりましたね」


 モニター越しから藍華は言う。


「まぁ、良い方向に動いてくれて何よりだよ」

「黒鉄様。本当は嬉しくてたまらないのではないですか?」

「何でそう思う?」

「参加者同士、仲良しこよしでいてくれた方が都合いいからですよ」

「……まぁ、そうだな」

「それに比べて他の六名の参加者は不信感が強い。誰も信用していないって感じが強く出ています。一層、この中から最初の脱落者を出しておきましょうか?」

「脱落って殺すことは許可しないぞ」

「勿論、別の方法で脱落させます」

「でも、そんなことをしてセカンドステージに支障が出ないかな」

「そこは新たな参加者を迎え入れましょう。この六名の参加者はこれ以上、ゲームを続けても面白みに欠けます。だったら一層、脱落させた方がいいと思います」

「脱落……か」


 俺は考えた。普通に脱落させてもスポンサーは納得しない。

 効果的な脱落方法はないかと。


「藍華さん。こんなのはどうだろう」と俺は自分の考えを話した。

「良いと思います。それなら誰も傷つけないですし、スポンサーも納得頂けます」

「よし。早速、行動開始だ」


 ファーストステージの結末は決まった。


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