第18話 孤島での休息〜その3〜


「白鉄さん。私の勘違いだったら申し訳ないのですが、もしかして……」


 甘栗百仁華が言い掛けたその時だった。


「ねぇ、皆! ちょっと来て!」


 米津七海は大声で俺たちを呼ぶ。


「もしかして何?」


 俺が聞くと栗見ははにかんだ笑顔で言う。


「いえ。大したことではないのでやっぱりいいです。それより七海ちゃんが呼んでいます。行きましょう」


 結局、何を聞こうとしていたのか分からず仕舞いで話は終わった。

 え? 何を言おうとした?

 モヤモヤが残る中、俺は仕方がなく栗見と共に米津のいる方へ向かう。

 コテージの裏側に米津は腕を組み、難しい表情を浮かべていた。


「七海ちゃん。何か見つけましたか?」

「うん。ねぇ、これ。どう思う?」

「どうって。これ何ですか? 樽?」


 樽が三つ。梱包された状態で不自然に屋外に置かれていた。


「開けていいやつかな?」

「ど、どうでしょう。七海ちゃん、開けてみて下さいよ」

「何で私が? 変なものが入っていたらどうするの?」

「変なものって何ですか」

「変なものは変なもの!」


 誰も開けたがらないのでじゃんけんをすることに落ち着く。

 そして負けたのは垣根である。


「何で私が……」

「死体とか入っているんじゃないの?」

「はぁ? バカなこと言わないでよ。開けにくいじゃないの!」


 米津の冗談に垣根は気分を害した。それでも誰かが開けなければならない。


「ぐっ! 硬い。何か道具無いの?」

「中にバールがありました。取ってきます」


 甘栗からバールを受け取った垣根はテコの原理で樽の蓋を開ける。

 すると勢いよく蓋は宙に舞った。


「この香りってワインかな?」


 樽の中にはワインが入っていた。アルコールの匂いが充満する。


「ど、どれ。ちょっと味見を……」


 米津は手ですくって口に含む。


「お、美味しい。これ、ちゃんとした赤ワインだ。ねぇ、皆も飲んでみなよ」

「ワイン? 私、未成年だから飲めないんだけど」

 栗見、椎羅、垣根は十代の未成年である。

「え? じゃ、白鉄さんは?」

「お、俺は酒、苦手で……」

「えー。じゃ私しか飲めないの?」

「ほ、他の樽の中身はどうなっているのでしょうか」


 栗見と椎羅はそれぞれ残りの樽の蓋を開ける。

 ブドウワイン、白ワインと樽の中身が判明した。

 種類は違えど、ワインであることには代わりない。


「やったー。飲み放題だ!」


 一人、米津だけが喜んでいた。

 意外と酒が好きなようだ。


「って飲めない私たちには意味がないじゃない! 何でこんなところにワインがあるのよ。しかも三つもいらないでしょ」


 一人、垣根は樽を蹴って怒りをぶつけた。


「やめて! 私のワインを虐めないで!」


 米津は必死で垣根から樽を守った。


「それより困りましたね。ワインがあったところで料理にしか使えませんし」

「それよ。ワインでコクのある調理に使える」


 甘栗のぼやきに椎羅が反応する。


「ですが、肝心の食材がありません」

 困った、様子を見せる四人に俺はヒントになる発言をする。

「もしかしたらワインが食材に化けるかもしれませんよ」

「ワインが食材に? 白鉄くん。どう言うこと?」


 俺は折り畳みの冊子を取り出し、四人に見せた。


「それは?」

「さっき部屋の中で見つけたんです。中にはこう書かれていました」




 デスゲーム参加者様専用。孤島での生活ルール。

 一、孤島からの脱出は禁止とする。

 一、コテージ内のものは自由に使用可。

 一、足りたいもの、必要なものは孤島内で現地調達すること。

 一、現地調達出来ないもので必要なものを要求する場合は物々交換又は借金をすることで調達できるものとする。

 一、自殺者が出た場合は連帯責任として全員を処刑する。

 一、次ゲームに参加できない状態異常になった場合は連帯責任として全員を処刑する。


 それは孤島で生活するルールブックである。


「つまり、ここに書いてある物々交換できると言うルールでワインと食材を交換することができると思うんです」

「え? ワイン交換しちゃうの?」

「アホ! ワインより食料の方が大事だろ」

「せめて一樽だけでも残して! 貴重な酒なんだよ?」


 涙目で米津は垣根に訴えかける。


「しかしどうやって交換するのでしょう? ここには私たちしか居ません」

「きっとどこかで運営側は見ているはずだ。ドローンのカメラが見えたからそれで常時俺たちの行動を監視していると思う」


 甘栗の疑問に俺は丁寧に教える。


「なら食材に変えて貰いましょう」


 米津の意向もあり、一樽分を残して二樽を物々交換の対象であることをどこかで聞いている運営に向かって言った。

 それから数十分後のことである。


「あれ? 何か飛んできましたね」


 甘栗は上空から飛んでくるヘリに向かって言った。

 ヘリは俺たちのいる真上からロープを落とした。

 そのロープの先には木の板が括り付けられている。


『交換するものをこのロープで縛れ』


 書かれた文字を見て皆で二樽を縛った。

 樽がヘリの中に吸い込まれると今度はダンボール箱がパラシュートを付けてこちらに降りてくる。

 ダンボール箱の中には野菜、肉類、小麦粉なんかが入っていた。

 運営に向けて言ったのは樽二つ分で変えられる食材を要求したら注文通りの品が入っていた。

 役目を終えたヘリは海の彼方へと消えていった。


「物々交換成功!」


 と、俺たち皆でハイタッチを交わした。

 これでまともな食材を手に入れることが出来た。

  

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