第19話 孤島での休息〜その4〜


 俺が参加者として参戦した数日後のことである。

 俺は個室で藍華と無線で連絡を取り合っていた。


「それで? 準備の方は順調か?」

「はい。黒鉄様の指示通り、順調に進めております。準備を終えるまであと十日ほど掛かる予定です」

「そうか。その調子で頼む。現状、不足しているものとかないか?」

「はい。心配ありません」

「そうか。そういえばリタイアした参加者の容体はどうなっている?」

「はい。体調の回復は順調ですが、精神的な回復はまだ掛かりそうです。あのまま無理にゲームを続けていたら間違いなく今より悪化した状態になっていたと思います。黒鉄様の判断が幸を呼びましたね」

「そうか。会場作りはいいとして問題は次の参加者だ」

「それなら組織が動いています。参加者を一気に増やすことは可能です」

「参加者を増やすのはサードステージからを予定している。セカンドステージは今いる五人で進めようと思う」

「ですが、セカンドステージでは……」

「あぁ、誰かを確実にリタイアさせなければならない」


 そう。セカンドステージは人数を増やさない予定でいる。

 当然、俺は最後まで参加者を見届ける役目があるのでまだリタイアするわけにはいかない。

 つまり、セカンドステージでは栗見、米津、垣根、椎羅の誰か一人をリタイアさせるゲームになる。


「リタイアさせる人は決めてあるんですか?」

「正直、選べていない。でもセカンドステージが始まる前には決めておくつもりだ」

「黒鉄様にしては随分、思い切ったゲームだと思います。当然、スポンサーは興味を引く内容でしょう。ですが、そんなパフォーマンスのために一人を犠牲にするってなかなかできるものではありませんよ」

「藍華さん。俺が一人を脱落させるのは何も犠牲って意味じゃない。救うって意味だ。このデスゲームから解放させる。そう言う意味での脱落だ」

「なるほど。黒鉄様らしいですね」


 それからセカンドステージの流れや次のサードステージの構想について藍華に伝えた。出来る、出来ないと言うのもあるが、まずは先のことを見越して予定を立てておくことは重要事項である。


「ところで孤島での生活は順調ですか?」


 この孤島は元々あった無人島を組織が買い取って作られたリゾートである。

 そう、デスゲーム参加者の待機所として用意された場所だ。

 地下には参加者の行動を制限するための隔離部屋や中央ドームが併設されている。連れてこられたら最後、自力では元の生活は送れない環境になっている。

 とはいえ、船やヘリを使えば簡単に行き来ができるので一生で出られないわけではないが、それは組織の力を借りるしか方法はない。 

 泳いで海を渡ろうにも孤島から陸まで五十キロ以上離れている。

 とても泳げる距離ではない。


「こっちでの生活は問題ない。その様子はそっちにも届いているはずだろ?」

「えぇ、そうですが少し気になる行動がありましてね」

「気になる行動?」

「はい。甘栗百仁華ですが……」


 その時である。俺の個室をノックする音がした。


「おーい。白鉄くん。ちょっといいかな?」


 甘栗だ。

 俺は急いで藍華との通信を切って通信機を布団の中に隠した。

 その直後である。俺の返事を待たずに甘栗は扉を開けた。

 間一髪のところで俺は証拠を隠した。


「ん? 今、誰かと話していなかった?」

「え? いや、独り言を。そ、それよりどうしたの?」

「緊急事態だよ。下で皆が集まっているから来てもらえるかな?」

「分かった」


 甘栗に呼ばれた俺は皆が集まるリビングに降りた。

 皆、浮かない顔をして俯いていた。


「一体、何が……?」

「食料が尽くそうなんだよ。今、テーブルに並べるから待ってね」


 テーブルの上には保存食が十人分。野菜や肉は五人分に満たない量が並べられていた。


「これが今、私たちに残された食料です」

「あれ? 昨日までもう少しあったような……?」

「そう! こっそり誰かが食べちゃったんだよ」


 数日前に物々交換したばかり。その時は全員で十日分くらいは過ごせる量だったのに今はもって三日というところだろうか。


「本当はこう言う犯人探しみたいなことはしたくないけど、生活を続けるためには仕方がない。正直に言いなさい。今なら許してあげる。誰が食べたか白状しなさい!」


 米津がバンッとテーブルを強く叩いた。

 しかし、誰も名乗り出ない。


「ふん。そう言うあなたが犯人じゃないの? 七海」


 垣根は睨むように言う。


「バ、バカ言ってんじゃないわよ。私なわけないでしょ」

「どうだか。何でそんなこと言い切れるのよ」

「違うって言ったら違うのよ」


 米津と垣根の言い争いが始まり甘栗が止めに入った。


「二人とも辞めなよ。今は喧嘩をする時ではない」

「そう言うあなたが犯人じゃないの? 百仁華!」

「わ、私違うよ。そんなことしないもん」


 収拾がつかない状況になり、それぞれヒートアップする。

 ただ、スローライフを送りたい俺としてはこんな醜い争いは望んでいない。

 解決策を模索して俺は提案する。


「あ、あのさ。犯人探しは辞めにしない?」


 俺の思いも寄らない発言に四人は固まる。


「勿論、誰かがこっそり食べたかもしれないけど、それはこの生活が少し窮屈だったかもしれない。だから生活を快適化したらそんなことをする人居なくなるんじゃないかな?」

「快適化って具体的にどうするわけ?」

 垣根の問いに俺は答える。

「役割分担しよう」

「役割分担?」

「そう。今は特に決めないまま自由に生活をしている。ただ、それだと団体行動としてのリズムが取れない。だからそれぞれ役割を持って生活すれば快適に生活が出来ると思うんだ。例えば、料理担当は食料の管理。調達担当は資材等の管理。得意不得意や手間のかかるものは交代制を導入するなどしていけばより生活は豊かになると思うし快適化に繋がる。どうかな?」


 ポカンと四人は無言で俺の話を聞き、頷き始める。


「確かに白鉄さんの言うことは最もかもしれませんね。役割分担。皆で考えながらやりましょう」

「そ、そうね。管理者を決めればそいつの責任に出来るし」

「自由過ぎるって言うのも問題だったわね」

「でも役割を決めたからと言って現状、食料問題が解決したわけじゃないよね?」


 椎羅の最もな発言に一同、気付かされた。


「まずは何か物々交換出来るものがないか、皆で探そう」


 前向きな俺の発言に皆、声を揃えて「はい!」と元気よく答えた。

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