第20話 孤島での休息〜その5〜
皆でコテージ内とその周辺で物々交換に出せるものがないか探し回った。
「これなんてどうかな?」
垣根はキッチンにあった電子ポットを持って来た。
「それがないとお湯が作れないでしょ。それに家具や家電系は辞めとこうと。それよりこれなんてどうかな?」
米津は灯油を持ってきた。
「それは大事な資源だからダメでしょ。それよりもう一度ワインを出しましょうよ。まだ一樽残っていたでしょ」
「え? もう半分以上飲んじゃったよ?」
「バカじゃないの。一人でガバガバ飲まないでしょ」
「だって私しか飲まないからいいじゃない」
「飲まなくても使いようはあるでしょ。これだから酒豪バカは」
「私はいいけど、ワインの悪口を言わないでよ」
「あんたをバカにしたんだけど?」
よく分からない言い合いをする二人に甘栗が近付く。
「ねぇ、物々交換にするもの見当たらないからここは借金をして食べ物を貰うことに……」
「それは辞めておきましょう」と椎羅は止めた。
「何で? ルール上問題ないと思うけど」
「ただでさえ、私たちは借金を背負ってこの場にいる。借金を返すためにデスゲームに参加している。それなのにこれ以上、運営に借金を積み重ねたら二度と普通の生活が送れなくなるかもしれない」
「で、でもこのままじゃ食料が……」
四人が困り果てている時、俺は大きな袋を担いで現れた。
「皆。これ、物々交換に出せないかな?」
「白鉄さん。それは?」
俺は袋の封を開けて床に広げた。
車の部品や小物類といった一見ガラクタのような数々である。
「こ、これって」
「漂流物だよ。さっきそこの海辺でかき集めて来たんだ。まだいっぱいあるから集めたらそれなりのものになると思うよ」
「白鉄さん。ナイスです。皆で漂流物を集めましょう。それで食料と物々交換をします」
一致団結して皆で漂流物を集めることになった。
数時間集めた結果、それなりの重量があるものになった。
「こんなガラクタで物々交換なんて出来るのかな?」
「と、とにかくやってみる価値はあります」
運営に向けて物々交換の申し出をして数十分後のことである。
「見てください! ヘリです」
一早く甘栗はヘリが近付くことを察知する。
ガラクタ同然の漂流物をロープで括り付けて引き上げられた後、ダンボールにパラシュートが付けられて落とされた。
「さて。何が入っているかな」
真っ先にダンボールに手を伸ばしたのは米津である。
そこには一回目よりも多い食料が詰められていた。
ざっと見て五人で二週間程度は食べていける量である。
漂流物が食材に化けたのだ。
「これでしばらく食料には困りませんね」
「それよりもどういう基準で物々交換になっているのかな。条件とか単位とか物量とか」
「千穂李は細かいなぁ。食材が手に入っただけでも良しとしようよ」
バンッと米津は椎羅の背中を叩く。
椎羅の疑問は最もだが、その基準はかなり曖昧だ。
条件や単位や物量の基準はない。
ただ、頑張りに見合った分が食料として還元されている。
食料が無くなったのは想定外だったが、次の便で追加すればそれは解消される。
俺の指示通りのモノがちゃんと入っていることを確認し、一安心した俺は藍華にお礼を言うため、個室へ戻った。
通信機を取り出して藍華と連絡を取る。
「藍華さん。俺だ。例の品、ありがとう」
「いえ、問題ありませんよ。それより黒鉄様の耳に入れておきたい情報があるのですが」
「あぁ、俺も聞きそびれてしまったから聞きたいと思って」
「はい。甘栗百仁華の件です」
ゴクリと俺は聞き耳を立てた。
「私、見てしまったんですけど、栗見百仁華は深夜、キッチンから食料を持ち出しました」
「じゃ、犯人は栗見ってことか。そんなに空腹だったのかな? 意外と大食い? にはとても見えないけど……」
栗見はスラッとした容姿で細身のある体型をしている。
食事の時は誰かに自分のモノをあげようとするくらいだ。
「それが持ち出した食料は食べていません」
「食べていない? じゃ、どこに?」
「海に捨てていました」
「捨てた? 何でそんなことを」
「それに関しては私には分かり兼ねます。気になる行動は他にもあります」
「それは一体……?」
「彼女、団体行動の輪を乱すタイプかもしれません」
藍華はその内容を詳しく教えてくれた。
普段、笑顔で場を和ます立ち位置をしている栗見だが、グループ内がギクシャクした時は決まって原因を作っていたと言う。
米津と垣根がよく些細なことで言い争ったりしているが、その裏で栗見はお互いの有る事無い事を告げ口していたのだ。
二人が言い争うと裏で【してやった】と言わんばかりの不敵な笑みを浮かべることがあると言う。
その光景を藍華はモニター越しで確認していた。
そして、今回の食料が消えた騒動でも甘栗が原因を作ったことで米津と垣根の間が拗れたりした。その様子をニヤニヤと笑っていたのだ。
「黒鉄様。これは私の主観ですが、きっと栗見百仁華はデスゲームが始まれば自分の手を加えず周囲の人間同士で殺し合いをさせるかもしれません。一刻も栗見百仁華を脱落させるべきだと思います」
藍華は真剣な口調で俺に主張した。
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