第17話 孤島での休息〜その2〜


 俺は栗見百仁華と対面した。

 ゲームマスターとしてではなく変装した俺の姿での対面だ。

 パーマのカツラにそばかすのメイクをした変装で参加者の前に現れた。

 モニター越しでずっと見ていたが、実際に会うと随分疲れた様子に見えた。

 これまでのゲームとサバイバルで疲労が溜まっているのだろう。


「あ、あの。どちら様でしょうか?」

「これは失礼。俺は白鉄阿久弥しろがねあくや。えっと君たちと同じデスゲーム参加者だよ」


 名前を少しもじった偽名を俺は名乗った。


「デスゲームの参加者? どうぞ。上がって下さい」


 栗見は俺を中に入れてくれた。

 中には栗見の他に米津、垣根、椎羅の姿があった。

 栗見同様疲れた姿が見ただけで分かった。


「男? 誰?」

「白鉄阿久弥さん。私たちと同じデスゲームの参加者なんだって」

「参加者? ふーん」


 垣根は少し怪しんだ様子で俺を見た。


「白鉄って言ったわね。あなたはどう言う経緯でここに来たわけ? ファーストステージには姿が見えなかったけど何で今更ここに?」


 不意をつくように米津は聞く。

 俺がゲームマスターであることは口が裂けても言うわけにはいかない。

 なので参加者としてここにいる必要がある。


「俺も突然連れ去られて何が何だか。確かにまだデスゲームには参加していないけど、準備が終わるまでここで他の参加者と行動を取れって指示があったんだ。運営の人の会話をチラッと聞いたんだけど、セカンドステージの人数合わせに参加者を増やすって話していたよ」

「つまり私たちの他にまだ参加者が増えるってことか。それで白鉄が選ばれた。そう言うことね」

「あぁ、そんなところだと思う」


 俺は四人の話を聞き、何があったか順を追って整理する風を装った。

 聞かずとも全て知っている。だが、知らないはずの人間が知っているのはまずい。出来るだけ話を繋げるように誘導しながら俺は今の状況を整理する。


「そう言うことですか。ではあなたたちはファーストステージの生き残り。セカンドステージまでこの何もない孤島で生活することを強いられているって訳ですか」

「はい。ゲームマスターは一ヶ月くらいって言っていたんですけど、いつまで続くか分かりません。おまけに食糧不足で。せっかく来て頂いたところ悪いですけど、何もおもてなしできずにすみません」


 申し訳なさそうに栗見は頭を下げる。


「話を聞く限り、それは変な話ですね」と俺は不意をつくように言う。


「え?」


 当然、四人は首を傾げた。


「この孤島は参加者の休息場として用意されたんですよね? だったら参加者を不健康な状態や餓死をさせるような真似はしないと思うんです。そんなことをしたらセカンドステージに影響があります」


 俺の発言に四人は考え込む。


「でもギリギリの状態にさせてセカンドステージに進ませるって言う目的も考えられなくもないよね?」


 垣根の発言に俺は否定する。


「運営の立場になって考えればその線は低いと思います」

「どう言うこと?」

「確かに参加者を苦しませる目的で孤島に放り出したならこれが本来のセカンドステージになるはずです。だけどゲームマスターは休息って言ったんですよね? だったら何のために疲労を溜めるようにさせる必要がある? 俺が考えるに何か特定の条件を満たせば必要なものは受け取れると思うんです。例えば食料とか娯楽品とか」


 確かにと四人はそれぞれ頷く。


「でもどうすればそんな都合の良いものが貰えるわけ?」

「多分、どこかにヒントがあると思います。まだ探していない場所や使って居ないものとかあると思うので手分けして探しましょう」

「分かった」


 俺は何とか主導権を握って四人を動かした。

 このままでは何も気付かないまま時間だけが過ぎてしまう。

 何とか参加者に気付いてもらうよう誘導したかった。




 こうなった経緯は少し遡る。

 ティアラが部屋から去った直後のことだ。


「黒鉄様。あのティアラ様に目を付けられたとなると逃げ道は皆無です」


 藍華は苦しい表情になりつつ言った。


「藍華さん。後のことは頼んでいいかな?」

「後のことと言うのは?」

「俺はこれから参加者としてデスゲームに潜ろうと思う」

「………………はい?」


 俺の発言に理解が追い付かない藍華はあんぐりとする。


「俺、ずっとデスゲームが始まってから考えていたんだ。どうせ殺されるなら参加者と同じ立場になってゲームを楽しみたいって。勿論、デスゲームだから楽しいことなんて何もないけど、俺が今この状況にいるのは参加者たちの存在があってこそなんだ。だからその参加者たちと少しでも近い距離で寄り添っていきたいって。そのためには俺自身が参加者になってゲームを進めたいって思ったんだ」

「黒鉄様……」

「藍華さんの言いたいことは分かっている。俺は参加者以前にゲームマスターであるってことだろ? 勿論、ゲームマスターとしても最後まで貫きたいと思っている。だから一人二役でこのデスゲームを進めていきたいんだ」

「そんなこと可能なのですか? いや、それ以前にゲームマスターが参加者になるって聞いたことがありません」

「安心してくれ。頃合いを見たら適当にリタイアするよ。それまで参加者と近い距離で居させてくれないか?」

「否定はしませんけど、参加者としている間、ゲームマスターの役目はどうするつもりですか?」

「だから藍華さんに後のことを頼むって言ったんだ」

「まさか私にゲームマスターの役目をさせるつもりですか?」

「頼めるか? 勿論、裏で俺から指示はする。ゲームの流れは俺が一式全般をするつもりだ。藍華さんに頼むのは俺の影武者になることだ」

「影武者……ですか?」

「あぁ。セカンドステージは打ち合わせ通りに準備してくれ。それにティアラたちは手出しできないことに変わりないが、監視の目は怠らず続けているはずだ。俺はその目を掻い潜るために参加者として紛れる」


 俺はそう藍華に念押しして参加者として紛れることが決まった。

 少し強引だったかもしれないが、これは俺の足掻きだ。


「出来ればこの長引かせたいけど、デスゲームが控えているんだよな」

「何か言いましたか?」


 独り言をしたつもりが、甘栗が近くで聞こえたらしい。


「あ、いや。何でもない。それより手掛かり探そうか」

「あの、白鉄さん。私の勘違いだったら申し訳ないのですが、一つ聞いてもよろしいですか?」


 少し改まった様子で甘栗は俺と距離を詰める。

 もしかして俺がゲームマスターって気付いただろうか。

 何かボロを出してしまったのか。俺はヒヤヒヤしながら後退りをしていた。


 

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