第16話 孤島での休息〜その1〜


 案内板の指示でエレベーターに乗った四人は今にも倒れそうなくらい疲労でフラフラである。上に向かうエレベーターの中では誰も声を発しない。

 地下から屋上へ止まったエレベーターから出た四人はその日差しに目をやられる。


「ここって……」


 目が慣れてきた時、四人が目にしたのは海である。

 そう、四人が今立っている場所は孤島であった。


「何、ここ。無人島? ホテルは? シャワーは? ベッドは?」


 てっきり休める空間が用意されていると思い込んでいた垣根五和は絶望した。

 期待した風景とは真逆の風景だったらしくその場に蹲み込んでしまった。


「おい! ゲームマスター。これはどう言うことよ。こんな何もないところで休息を取れって言うの? 冗談も大概にしなさいよ!」


 米津七海はどこかで聞いていると思って空に向けて怒鳴り付ける。

 しかし、当然のように米津に返答するものは誰もいない。


「見て! あそこに何か建物がある」


 栗見百仁華が示す方向にはコテージと思われる建物が孤島の中心に建てられていた。

 選択肢がない四人はひとまず建物を目指して歩いた。

 目の前まで行くとそこは木造で出来た立派なコテージだ。

 扉には鍵は掛かっていない。

 中を開けるとリビング、キッチン、トイレ、バスルームがある。


「二階は個室が八部屋もあるよ。ベッドもそれぞれの部屋にあるんだけど」


 真っ先に二階へ駆け上がった米津は一階を探索する三人に向けて言った。


「どうやらここが私たちの過ごす家ってことになるわね」


 椎羅千穂李は冷静に分析をする。


「うわぁ、冷蔵庫の中、何もないじゃん。調味料ばっか。食材は? お菓子は?」


 垣根は冷蔵庫の中身を見て愕然とした。


「あ、見て。パントリーの中にインスタント食品があるよ。カップ麺とか缶詰は常備されているっぽい!」


 甘栗は食料を見つけて報告した。


「運営から用意されているのは住む場所と着替え。食料は最低限のもの。これで過ごせってことか。過ごせなくはないけど少し心ともないわね」


 椎羅が言うと皆、同じ考えが過ぎった様子で米津は言った。


「ここってどこかの孤島だよね? 現地調達をすることも可能ってわけだ」

「えぇ、そうなりますよね」

「誰かサバイバルをしたことがある人」


 誰も返事をしない。


「サバイバルをしたことはないけど、やり方なら本で読んだことはある」


 椎羅は申し訳程度に言う。

 こいつを信じていいのか、と言う空気が三人の中で流れた。

 それでも無いよりマシと言うこともあり、椎羅を信じることにした。


「じゃ、千穂李。あなた、何か捕ってきてよ。私は休んでいるからさ」


 投げやりの様子で垣根は言う。


「こら、五和。あんたも行きなさいよ」

「そう言う七海だって行きなさいよ」

「わ、私は私でやることあるから」

「やることって何よ」


 言い争いになったところで甘栗は言う。


「じゃ、役割分担をしましょう。狩り班、山菜採り班、調理班ってことで。狩り班は大変だから二人でどうかな」


 話し合いの結果、狩り班は椎羅と米津。山菜採り班が垣根。調理班が甘栗という内訳になった。


「じゃ、日が暮れるまでに戻ってきてね。私は中で食べられそうなものを調理しておくからさ」


 甘栗は三人を見送る。

 疲労の中、生きていくために四人はサバイバルを強いられる。

 そして日が落ちる頃、椎羅と米津一行はコテージに帰ってくる。


「お、お帰りなさい。何か収穫は……?」


 げっそりした二人の顔を見た甘栗は心配の顔を浮かべる。


「知識と実際にやるのでは違いがあるようね」と、嫌味のように米津は言う。

「……今日はダメでも明日は必ず獲れるから」

「何を根拠に? 全くダメだったじゃ無い」

「ただいま! 色々取れたよ」


 そこで丁度帰宅した垣根は袋一杯に山菜を見せた。


「何これ。毒キノコじゃない?」


 垣根の採ってきたものは見た目が毒々しいものばかりである。

 正直、食べていいものか判断できない。

 結局サバイバルは全滅に終わった。


「ははは。インスタントだけど食べようか。すぐ食べられるから」


 三人の収穫を信じていなかった甘栗は人数分のカップ麺とレトルト食品をテーブルに並べていた。

 ここにきて空腹の限界だった四人は貪るように食べた。


「結局、自給自足は出来そうにないですね。この食料が尽きたら私たちどうなるのでしょうか」


 甘栗の疑問の声に三人は固まる。


「あ、明日こそ大物を獲るぞ!」

「勢いだけでどうにかなるなら苦労しないよ」


 と、完全に冷めた様子で垣根は米津の発言を返した。


「とはいえ、このままでは本当にやばいですね。千穂李ちゃん。何か良い方法はありませんか?」

「思いつくことはいっぱいあるんだけど、道具が何もない」

「道具?」

「釣竿とか網とか弓とか」

「あぁ、確かに見当たらないね。そっか。素手で獲ろうとしても浅瀬で貝くらいしか取れないか。でもおかしいな。調理器具は充実しているよ。鍋とか夜間とか食器類もそれなりにある」

「運営のミスじゃないの? 絶対おかしいじゃない。調理器具はあるのに食材がないって」


 垣根はイラついた様子で言う。


「確かにそうかもしれませんね。運営さんもおっちょこちょいな人もいるものです」

「そうかな? 絶対にわざとでしょ」


 米津が言った直後、全員からため息が出る。


「細かいことは明日考えるとして今日は寝ましょう。寝ることはただで出来ますし」

「それもそうね」


 甘栗の提案に一同、就寝をすることとなった。

 そして翌朝のことである。

こんこんと入り口のノックで四人は目を覚ます。

 思いもよらない訪問者に四人は警戒する。


「だ、誰でしょうか」


 誰が出るか四人は目で合図をする。

 結局、入り口に向かったのは甘栗だ。


「はい。どちら様でしょうか」


 甘栗は扉を開けた。

 

 


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