第15話 ゲーム終了後の訪問者

 

 ファーストステージ終了のアナウンスが流れ、無事にゲームを終えた俺はモニター越しで参加者の前に立つ。


「ファーストステージクリアおめでとう。君たち四人は無事に生還を果たした。いやぁ、素晴らしい光景を見させてもらったよ」


 パチパチと俺は軽く拍手を参加者へ送る。

 ゲームマスターとして俺は精一杯ユーモア溢れる性格演じた。

 自分の素を出さないために真逆の性格を演じつつ、ゲームマスターとしてゲームを操っているような雰囲気作りを出し切る。

 勿論、俺はそんな演技力なんてない。だが、短時間で藍華と練習してなんとかの状態を維持していた。少しでも気が緩むと自分の素が出て情けないゲームマスターが出てしまう。


「あ、あの。これで終わりって訳じゃないですよね?」


 栗見百仁華は聞いた。


「当然だ。君たちにはセカンドステージに進んでもらおう」

「ねぇ、これはいつまで続けるつもり? 終わりはいつ?」


 苛立った様子で垣根五和は反論する。


「いつまでか? それは君たちに知らせる権利はない」


 正直、最終ステージは決まっていない。だが、それを参加者に悟られるわけにはいかない。俺はなんとか言い訳を重ねて回答をぼかした。


「私たちは必死こいてこのステージをクリアした。それなのに【はい、次!】ってあんまりじゃない? 少しは私たちの気持ちにもなりなさいよ。あなたには人の心ってものがないわけ?」


 米津七海は敵意むき出しになりながらゲームマスターの俺に対して上から言い放つ。参加者がゲームマスターに逆らうというとことは殺されても不思議ではないが、米津は感情的だった。

 当然、俺にも人の心はある。そして参加者と同じ立場で考えられる。


「君たちがセカンドステージに進むことは避けられない。死ぬか生き残って大金を得るか。二つに一つ。だが、クリア直後に次のゲームとなれば精神的にも肉体的にも都合が悪いだろう。そこでだ。君たち四人には次のゲームまでしばしの休息期間を設けよう。その間は自由に過ごしてもらう」


 俺の提案に参加者たちは怪訝そうに睨んだ。

 口を開いたのは甘栗である。


「それはどれくらいの期間を頂けるのでしょうか」

「そうだな……。一ヶ月の休息期間を与えよう」

「い、一ヶ月?」

「何か裏があるんでしょ?」と垣根は信じていない様子だった。

「勿論、休息期間は前後する可能性がある。裏といっても次のゲームの準備が必要なので止むを得ずというところだ。その間は生き延びたことを喜びながら過ごしてくれ。休息する場所はこちらで用意してある。案内板に従って進んでくれ。呉々も自殺するような面白みに欠けることは禁止だ。説明は以上だ」


 俺はモニターか消えた。

 消えたといっても参加者から俺が見えなくなるわけで俺からは参加者の姿は筒抜けた。

 参加者たちは俺が示した案内板に目を向ける。

 怪しみながらも内容を確認して先へ進んでいく。


「フゥ。やっと一仕事を終えたな」


 俺はカラスのマスクを取って開放感を堪能した。


「お疲れ様です。黒鉄様」


 藍華は俺にタオルを差し出す。


「藍華さん。スポンサーのコメント欄はどうなっている?」

「好評でございます。セカンドステージも期待の声で溢れかえっています」

「そうか。それは良かった」

「それより黒鉄様。お客様です」


 俺が振り向くとそこにはピンク髪の若い女性の姿があった。


「無事、ファーストステージを終えたようだね。黒鉄阿久斗くん」

「……あなたは?」

「本名は内緒だけど、ティアラって呼んでね。私はスポンサー側の最高責任者をやっているの」


 聞いたことがある。組織には五人の幹部クラスの人がいると。だが、その素性は謎に包まれており、事務員の俺には全く耳に入らない存在だ。


「本来、ここにはデスゲーム最高責任者のライムが来るべきだけど、彼は彼で忙しい身でね。代わりに私が来たってわけ」


 ティアラは馴れ馴れしいくらいの距離を詰めた。

 よく見ると周りにいるデスゲーム部門の黒服は彼女を恐れた様子を見せている。


「……俺に何か御用ですか?」

「それは君がよく分かっているんじゃないの? 黒鉄くん」


 指で俺の顎を撫でながら間を置いてティアラは言う。


「横領したお金はどこに隠したのかな?」


 やはりその話か。だが、それを言うわけにはいかない。

 隠しきれないけど、ここは引くわけにはいかない。


「さぁ、どこでしょうか。どこか遠いところか、はたまた身近なところか、もしかしたらすぐそこかもしれませんね」


 俺は精一杯自分の感情を隠した。少し怪しい行動を取ったら計画が一気に崩れる。


「ふーん。あくまでしらを切るってことね。まぁ、それでもいいけど、どのみち君は組織から逃げられない。この意味、分かるよね?」

「勿論分かりますよ。でも、俺を処分するなり拷問するなりすることはデスゲーム中では手出し出来ない。そうですよね?」

「そうなのよね。それをするとスポンサー側を敵に回すことになるから厄介なのよ。ファーストステージでスポンサーから見放されると思って来てみたら期待外れね。即刻あなたを捕まえようと思ったのに見てよ」


 パチンとティララが指パッチンするとモニタールームには無数の黒服が俺の周りを取り囲んだ。


「確かにこの数で取り押さえられたら俺はどうすることも出来ないな」


 冷や汗を掻きながら俺はなんとく言葉に出す。


「でも残念。まだまだ黒鉄くんはゲームマスターを降りられない。これじゃ取り抑えようにも取り押さえられない。命拾いしたわね」


 はぁ、ため息を吐きつつティアラは残念そうに言う。


「俺は少しでも長生きするため、最高のデスゲームを作り続けます。寿命を延ばすにはそれしかないから」

「それに何の意味があるって言うの? あなたはどのみち処分される運命。塚越って奴と同じように」

「あなたが彼を殺したんですか?」

「正確に言えば私じゃなくて私の部下。まぁ、指示をしたのは私だけどね。私の部下には拷問のプロがいる。そいつに掛かれば一時間以内で吐き出すことになる。あなたもその拷問を受けてから死んでもらうから。素直にこの場で在処を言うなら考えなくもないけどね。ふふふ」

「悪いけど、俺はまだ在処を言うわけにはいかない。このデスゲームが終われば包み隠さず言ってやる。それまで何が何でも言わない」

「……そう、後悔することになるわよ」

「構わない。例えそれがどんな結末になろうと俺は最後の最後まで足掻き切ってみせる」


 俺は睨むようにティアラに言い放つ。


「ふふ。精々無駄に足掻きなさい。いつまで持つか楽しみね。黒鉄阿久斗。あなたはもう残酷な死に方しか待っていないから」


 ティアラが部屋から出ると同時にティアラが連れていた黒服達もモニタールームから出て行った。

 静まり返った部屋に俺は緊張の糸が切れてその場に腰を下ろしていた。


「やっちまった」と俺は組織の最高幹部に喧嘩を売った事実を実感した。


 

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