第8話 ファーストステージ〜地下迷宮〜その1


「いよいよ始まりましたね」


 ゲームの説明を終えた俺の後ろから藍華が言う。

 画面は切れ、俺の姿から参加者視点の画面に移り変わった。

 参加者がゲームを進める姿をスポンサーが見ている頃である。


「藍華さん。どうみますか? このファーストステージ」

「私からは何とも。ゲームの世界観を作り上げることは可能ですが、ゲームを面白くするためにはやはり参加者次第かと」

「だよなぁ。俺の仕掛けに参加者がうまく気付いてくれたらいいんだけど、そこは賭けになるだろう」

「きっと気付いてくれますよ。意外と頭の切れる参加者はいますから。それよりあの衣装は何か意味があるのですか?」


 藍華は参加者に着替えさせた天使のコスチュームにツッコミを入れた。


「全く意味はない。しかし、画面映えするには華やかな衣装の方がスポンサーも喜ぶだろう。多分、スポンサーって中年のおっさんばかりだろう? せっかく参加者が若い女性なんだからうまく利用しない他ないだろう」

「まぁ、中年のおっさんかどうかは知りませんけど、天使の理由は?」

「逃げ惑う天使を狩る死神。弱肉強食の構図的にいいかなって思って」

「そうですか。確かに画面映えにはなっておりますね。生配信のコメントは高評価ですよ。投げ銭もかなりの額が入っております。ご覧になられます?」

「いや、藍華さんの口から聞かせてくれ」

「それはなぜ?」

「直接見ると誹謗中傷のコメントを嫌でも見ることになるだろ? そういうコメントを見るとゲームマスターとしての定めがブレてしまう。一度崩れてしまえば悪い方に流れてしまう恐れがある。だからなるべく自分の選んだゲームの展開を変えたくないんだ」

「しかし、スポンサーの意見もごもっともな場合だってありますよ? スポンサーの意見を見ながらゲームの展開を変えていくのは必要だと思いますけど」

「そういう意見は藍華さんを通して聞きたい」

「もしそれで私がスポンサーと真逆の意見を言ったらどうするんですか?」

「俺は藍華さんを信じている。俺の秘密を打ち明けたあの時から信用するって決めたから」

「それはありがとうございます。私も黒鉄様のゲームを成功させたいと心から願っております」

「うん」


 藍華はイヤフォンから何か情報が入ったようで耳を澄ます。


「黒鉄様。どうやら黒鉄様の横領が組織にバレてしまわれたようです」

「そうか。まぁ、遅かれ早かれだな。ただ、デスゲーム中は一切手出しが出来ないんだろ?」

「はい。ですからこのファーストステージは組織として失敗することを願っている様子です」

「もう後には引けないってことか。上等だ。参加者たちに画面を切り替えてくれ。現在の様子は?」

「はい。それぞれの参加者へ画面を切り替えます」


 藍華の操作でモニター画面は参加者へ切り替わった。

 落とし穴に落ちたその先には地下通路が広がっていた。

 参加者の落ちた先はそれぞれ別々。個々で彷徨っていた。


「また行き止まり? 一体、どうなっているのよ」


 不満を漏らしたのは米津七海よねずななみ。筋肉質で凛とした天使姿の彼女は落とし穴に落ちてから人一倍に動き回っていた。

 だが、行く先々で行き止まりの連続。体力には自信があるが、その結果は報われない。


「迷路……か。マジ面倒なんですけど!」


 つい不安を漏らすのは垣根五和かきねいつわ。落ちた場所から殆ど動かずに周囲をウロウロするばかりだ。


「何だかずっと見られていますね。ずっとついてきますし」


 甘栗百仁華あまぐりもにかがチラリと後方を確認するとずっと張り付くドローンの姿があった。参加者にはそれぞれ一台ずつドローンでリアルタイムの映像を送っている。

 映像が途切れないように一定の距離を保ちながらカメラを向けていた。

 その映像はゲームマスターの俺の元は勿論、スポンサーにもその様子は届けられていた。

 徹底的瞬間を見逃さないためにドローンによる映像は配信には欠かせない。

 参加者は出口を求めて目の前の道を進んでは引き返す。

 そんな映像が終始流れていた。


「迷っていますね。


 と、藍華は元も子もないことを言う。


「今は出口を用意していないだけでゲームが佳境に入れば作るさ」

「良い感じに迷ってくれていますからそろそろ例の仕掛けを発動しますか?」

「そうだな。手始めに米津七海から行こうと思う」

「何故、彼女を?」

「肉体派の彼女なら派手な演出が期待できそうだからだ」

「そう言うことですか。承知しました。米津七海のいるエリアに例の仕掛けを発動します」


 藍華はキーボードを叩き込んで操作した。


「くそ! 出口はどこよ!」


 米津七海がイライラを募っている時である。

 ゴゴゴゴッ! と、何かが作動する音が響いた。


「な、何事?」


 振り向いた米津はその正体を見て驚愕した。


「な、な、な! 死神?」


 大鎌を持った骸骨。死神の姿がそこにあった。

 命を狩る死神は米津七海の姿を捉えた。


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