第3話 デスゲーム会議
「あぁ、それはマズイですね」
特に驚いた様子は見せず、通常のトーンで藍華は頷くように呟く。
組織にためとは言え、辻褄を合わせる為に金の流れを操作していたのだ。
データで見た時の数字は問題ないが、実際は穴だらけのもので引き継ぎをされたら間違いなくその事実は組織内で発覚する。
言ってしまえば俺の行為は組織に対する裏切り行為で処分される事実は免れない。そんな状態にいることを知った藍華は全く感情が読めない表情を浮かべる。
「頼む。どうにかゲームマスターを辞退する方法はないだろうか」
俺はすがるように藍華に言う。
「残念ですが、そのような事実があったとしてもゲームマスターを辞退することは不可能です」
「はぁ、結局俺は組織に消される運命なのか……」
諦め掛けていた俺に藍華は手を差し伸べるような発言を加えた。
「ゲームマスターを辞退することは出来ませんが、組織に消されることを回避する方法ならありますよ」
「え? 本当に?」
思い掛けない助言に俺は反応した。
「デスゲーム開催期間中は如何なる場合でもゲームマスターを組織に都合で排除することは出来ません。そんなことをしたらスポンサーへの信頼を無くして組織そのものが消されかねません」
「じゃ、その期間は俺に手出しできないってことか。ん? でも、デスゲームが終わったら……」
「組織に消されるかもしれませんね」
「駄目じゃん!」
ノリツッコミのように俺は声を張って言う。
「ですからデスゲームを終わらせないようにしましょう」
「デスゲームを終わらせない?」
「言い換えれば長引かせる手法を取ればいいんですよ。結末を先送りにしていけば黒鉄様はずっとゲームマスターのまま。つまり組織は消したくても消されないってことです」
「な、なるほど。筋は通っているけど、そんなこと可能なのか?」
「勿論、あからさまな引き伸ばしだとスポンサーは退屈して低い評価になりかねません。退屈させずに先の展開が気になるシナリオを作り続ければいいだけです」
「確かにそうかもしれないけど、それってかなり難易度高くないか?」
「そうですね。でも黒鉄様が長生きする方法はこれしかありません」
出来るのか? そんな引き伸ばしをして面白いシナリオを作り続けるなんて。
最初は問題ないかもしれないが、回数を重ねる毎に無理があることは容易に想像が出来た。それでも俺が生き残る方法はこれしかない。
「決意は固まりましたか?」
俺が俯いて考え込んでいると藍華は声を掛けた。
「どのみちやるしかないってことだろ? だったらやってやるよ」
「決心がついたようですね。ではシナリオを考えましょうか。ちなみにファーストステージではまだスポンサーが付かない状態ですので予算は限られています。組織が割り当てた資金を使い、スポンサーを付けていく流れとなります」
藍華は予算原価書を俺に差し出した。
「これがファーストステージで使える資金か」
「勿論、ファーストステージで使える資金にはなりますが、全額使い切ると後々キツくなりますよ」
「え? そうなの?」
「先ほども説明したように余った資金はゲームマスターの懐に入ることになります。それは最終ステージを終えた後に付与されるお金です」
「どのみち最終ステージが終わったら俺は消されるんだ。残して置いても受け取る本人がいなくなったら意味がないだろ」
「そうかもしれませんけど、ファーストステージの余った金額はセカンドステージにも回せます。つまり資金が多ければ多いほど、スポンサーの喜ぶゲームに磨きを掛けられるってことになります」
そう言うことか。各ステージの資金を限界まで使い込むと次ステージのクオリティーが維持できなくなる。
ゲームを長引かせる為には予算以内は勿論だが、余裕を持って残しておかないとゲームマスターとしての評価を落としかねない。
ゲームの内容とそこに割り当てる資金の使い方は考え抜かなければならない。
ゲームマスターとしての立場以前に原価管理の要素も問われる。
「数字の計算等は私にお任せ下さい。こう見えても私、簿記の一級を持っていますので正確性には自身があります」
「それは心強いな。黒字は勿論だが、限界まで利益を出したい。俺の生存のために」
「お任せ下さい。ではゲームの内容を考えましょうか」
俺は藍華と共にゲーム内容の打ち合わせをした。
評価を落としても駄目、引き伸ばしても最後には殺される。
逃げ道のない俺はギリギリまで生き残ろうと苦悩の末、考え抜いた。
半日以上の話し合いの末、セカンドステージまでシナリオが決まった。
だが、これも条件が揃わなければ意味をなしていないものになる。
「お疲れ様でした。今日はこのくらいにしておきましょう」
藍華は資料を片付けた。
「あの、藍華さん。これって最終ステージまでシナリオを考えておかないとダメかな?」
「理想はそうですけど、スポンサーの受けや投げ銭の金額が変わりますのでシナリオ通りというのはほぼほぼ難しいと思います。大体は現場の状況を見ながらその都度、シナリオを変えていくのが一般的です。後、問題なのが参加者です」
「参加者? そういえばどういう人が集まるんですか?」
「その都度、ステージによって人数は変わりますよ。今回、黒鉄様のファーストステージでは十名を予定しております。ゲームのシナリオは勿論ですが、参加者によってゲームの面白さは変わってきます。そこはまぁ、運と言っておきましょうか」
「そればかりは仕方がないか。参加者ってどういう風に決められているんですか?」
「デスケームですよ? 当然、この世に不要な人間が選ばれます。選ばれる要素は主に三つあります。一つは組織に借金があること。一つは天涯孤独で身内がいないこと。そして自殺未遂であること」
ピクリと俺の眉が動く。確かにその条件であれば参加者として都合がいいのかもしれない。だが、そんな都合の良い人材がすぐに集まるものなのだろうか。
組織のことだ。人材ならあの手この手で探し出してくるのだろう。
「藍華さん。俺のデスゲームの参加者って……」
「既に集められています。モニター越しにはなりますけど、ご覧になりますか?」
「頼む。映してくれ」
モニター画面には参加者が映し出された。
そこに映る十名の参加者が俺の命運を分ける存在になるだろう。
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切実に(汗
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