第2話 ゲームマスターの使命


「起きて下さい。黒鉄様」


 黒服に揺さぶられた俺は目を覚ました。

 どれくらい眠っていたのか全く記憶がない。


「ここは……?」

「デスゲーム会場のモニタールームです。では我々はこれで。後はよろしくお願いします。愛上様」

「ありがとうございます。後のことはお任せ下さい」


 モニタールーム?

 意識がハッキリした俺は周囲を見渡す。幾つものモニターが並んでおり、それを黒服が複数人で監視していた。

 初めて見たデスゲームの現場風景に俺は色々と驚きが隠せなかった。


「黒鉄阿久斗様ですね。初めまして。私はデスゲーム運営の進行サポートをするゲームマスターの右腕的存在になる愛上藍華あいがみあいかと言います。今後は黒鉄様の指示を私が受け付けますので何なりとお申し付け下さいね」


 俺の前に現れた愛上藍華という女性。

 黒髪の短髪で赤渕眼鏡が特徴的だ。凛としたスタイルで童顔だが、実年齢は二十代後半くらいだろうか。

 真面目で細かそうな雰囲気が目に見えた。


「よろしくお願いします。あの……」

「言いたいことは大体分かります。まずはここがどのような施設かってことですが……」


 俺が質問することを察したように説明を始める。

 俺が今いるこの場所はデスゲーム会場を監視しているモニタールームであることは間違い無いのだが、実際のデスゲーム会場から少し離れた位置にあると言う。

 監視は勿論、向こう側と会話をすることや遠隔操作で仕込まれた装置を動かすことが可能。現場まで実際に足を運ばずとも画面越しから大抵のことは出来ると言う。

 施設について一通り説明を終えた愛上は二本指を立てて次の説明に移る。


「施設についてはこんなところです。次に黒鉄様の仕事。ゲームマスターについてして頂く仕事ですが、主に二つ。一つはデスゲームのシナリオを全て指示、実行して頂くことです。実行するのはデスゲーム部門に所属する人間ですので黒鉄様がして頂くのは参加者へのゲーム説明とゲームのルール作りですね。それともう一つはスポンサーを楽しませること」

「スポンサーを楽しませる?」

「デスゲームを行う上で資金はスポンサーの投げ銭から成り立っております。デスゲームというのはスポンサーに向けた配信を行って進行するゲームになります。ですのでスポンサーの評価が低い場合はデームマスターの座を降りることになります」

「それって……」

「安心して下さい。死ぬことはありません。ただ、その身を持ってスポンサーを楽しませてあげる必要があります。そうですね……過去に評価の低いゲームマスターは拷問器具の使い方の実演をさせられていましたね。障害が残って日常生活に支障がありますけど、死ぬことはありませんでした」


 それは死んだ方がマシと言うやつなのでは無いだろうか。

 デスゲームのゲームマスターって結構何でも有りで理不尽な人物と思っていたが、裏では自分が評価されている訳か。評価が低ければ自分が参加者になり得るくらい失敗が許せない立場であることが分かった。結局はスポンサーへの娯楽のために行われているゲームに過ぎない。


「ゲームマスターとは言え、立場上は平社員と変わらないな」

「そうでもありませんよ。ゲームマスターにはある特権が与えられます」

「ある特権?」

「特別ボーナスが得られます。デスゲーム資金の余りはそのままゲームマスターに付与される制度です。諸経費、税金、組織の取り分を差し引いた金額になりますけどね。但し、あまりケチケチして安っぽいゲームを続けたらスポンサーの評価は一気に下がって即降格になりますので注意が必要です。ゲームマスターに求められるのはゲームの完成度であり、如何に予算以内でスポンサーが楽しめるゲームに仕上げるか。全てはそこに繋がります。結構、責任重大な仕事なんです」

「マジか。責任は重大かもしれないけど、やりがいはありそうだね。俺に務まるかな。そんな大役」

「そのために私たちのようなサポーターがいる訳です。一人では絶対に出来ないですが、皆でやればきっと完成度の高いゲームが仕上がります。一緒に頑張りましょう。黒鉄様」


 愛上藍華は安心させるように俺を勇気付けた。

 俺のやる仕事は定まった。しかし、それでも色々不安は残る。


「愛上……さん」

「私は黒鉄様より立場の低い人間です。呼び捨てで構いませんよ。何なら名前呼びでも構いません」

「じゃ、藍華さん。あの、一つ確認したいことが」

「はい。何でしょう?」

「ゲームマスターを辞退するって選択は……」

「出来ません」


 藍華はキッパリと笑顔で言い放った。分かっていたことだけど言わずにはいられなかった。ゲームマスターを引き受けると言うことは俺の横領が事務所内で発覚することに直結するからだ。


「ちなみに不都合があるのなら一応聞いておきますけど?」

「不都合というかスポンサーからの評価が低いことを考えると……」

「確かにそのように説明しましたけど、そうならないために私たちがいるんです。最悪な事態を想像するのは悪いことではありませんが、そればかり考えていては良いものが作れません。黒鉄様は別のことを気にしているのではないでしょうか?」


 見透かしたように愛上藍華は言う。

 ゲームマスターの最悪の結末を心配しているのが建前だと言うのが勘付かれてしまった。


「黒鉄様?」


 うーん。本当のことを言うべきだろうか。部外者になら言いやすいが愛上藍華は組織の人間だ。事実を言うのは違う気がする。

 しかし、遅かれ早かれ藍華の耳に俺の横領問題が入るのは避けられない。


「安心して下さい。事情がどうであれ、私は黒鉄様の味方です。口は硬い方ですので正直に話してくれると嬉しいです」


 藍華はワンクッション置いて俺を安心させるようにそう言った。


「藍華さん。デスゲームのゲームマスター関係なしに俺は組織に殺されるかもしれません」


 俺は隠していた事実を打ち明けた。



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