デスゲームのゲームマスターは横領で組織から命を狙われています〜少しでも長生きしようと参加者たちに混じって孤島でスローライフをしようと思います〜

タキテル

第1話 通達:デスゲームのゲームマスターを命ずる


「喜べ。黒鉄。お前をゲームマスターに推薦すると上から通達があったぞ」


 事務処理をしている中、ふと上司からそんな声を掛けられる。


「ゲームマスター? 何の?」

「何のってデスゲームだよ。是非、黒鉄にデスゲームの運営を任せたいとのことだ。良かったな。この仕事を任されたってことは出世街道に乗れたってことだ。いやぁ、上司の俺としても鼻が高いよ」


 上司は自分のことのように喜びながら俺の肩を強めに叩く。

 その衝撃で俺はようやく自分の置かれた状況を把握した。


「ほ、本当ですか? 俺がゲームマスターに?」


 未だに信じられなかった。だってゲームマスターといえば責任重大な仕事だ。

 その役目を俺がやるというのだから誰かが仕組んだドッキリとさえ感じてしまう。


「二十三歳という若さでゲームマスターを任されたのはお前が初めてかもしれないな。組織の期待に応えて良い仕事ぶりを頼むぞ」

「は、はい。ありがとうございます」


 俺、黒鉄阿久斗くろがねあくとはとあるブラック企業に勤めるサラリーマンである。

 ただ、うちの企業は普通とは少し……いや、大分違う業種だ。

 表向きは金融機関。裏では借金の取り立てなんかをする闇金業者だ。

 俺の所属する組織にはごく一部しか知られていないデスゲームが存在する。

 そのデスゲームに携われたものは出世間違いなしと言われるほどだ。


「じゃ、今から現場に飛んでくれ。チケットの手配はしてあるそうだ」

「え? 今からですか? いくら何でも急じゃ……」

「どうも穴が空いたらしくてな。担当が失踪してしまったらしい。そこで穴埋めとしてお前が選ばれたわけだ」

「失踪? それ、色々大丈夫なんですか?」

「大丈夫だ。もう、迎えの車が外で待機しているそうだ。支度を済ませたらすぐに行ってくれ」


 上司は雑な説明を吐き捨てて仕事に戻っていく。

 都合の良いことを言って実は厄介払いされているかもしれないと薄々感じた。

 しかし、それでも俺は断れなかった。

 そう、俺は頼まれたら断れない性格をしている。しかも極度な。

 よって組織としてもこれほど良い人材は他にいないだろう。

 受けた仕事は真面目に取り組み業績を積み重ねていく俺はまさに社畜そのものだ。

 簡単な支度を済ませて外に出ると黒のベンツが停まっていた。

 その横には黒服の姿があった。


「お待ちしておりました。黒鉄様。後ろにお乗り下さい」

「ありがとうございます」

「おっと、その前にこちらを付けて下さい」


 渡されたのはアイマスクである。不服そうに黒服を見ると説明してくれた。


「会場の位置は例え、組織の人間だろうと極秘になっております。ご理解下さい」

「分かったよ」


 俺は仕方なしにアイマスクを付けた。

 ますます怪しい。普段、事務所で仕事をしているので現場のことはあまり分からないが、噂で聞くデスゲームはかなり危険なイベントなのかもしれない。

それでも俺は断れずに足を踏み込もうとしていた。


「あの、担当が失踪したって聞いたんですけど」


 横に座る黒服に質問を投げ掛けた。

 タバコを一服して黒服は答えた。


「あぁ、組織の金を持ち逃げしたんだよ」

「それって横領ってことですか?」

「そうなるな。勿論、そんな不届きものは消されたさ」

「消されたって……殺されたってことですか?」

「勿論だ。表向きでは失踪ということにしているが、裏では消されたはずだ。うちの組織に関われば証拠は一切残らないさ。ははは」


 軽い談笑のようなノリで黒服は言うが全然笑えない。


「あの、俺は一体何をやればよろしいのでしょうか?」

「詳しいことは現場の人間に聞いてくれ。俺たちが任されているのは送迎だけだ」


 送迎というより連行されている気がする。

 組織として最も罪が重い行為と言えばやはり裏切り行為である。

 横領して組織に殺された話を聞いた俺は小骨が奥歯に刺さったような歯痒い感じが脳内を駆け巡っていた。

 俺は普段、真面目に業務を遂行しているが、それは不正しつつ業績を上げていたのだ。一度や二度ではない。日常的に行っていた。

 つまり、不足している売り上げを別の窓口から譲渡していたのでマイナスになることなく売り上げを伸ばしていた。

 それは俺が裏で操作していたから成り立っていた訳であり、俺が抜けた今、その操作は別の人間が引き受けることになる。

 つまりだ。俺は横領していることになり、その事実が知られるのは時間の問題である。デスゲームのゲームマスターの通達があって喜んでいる場合ではない。俺の抜けた穴は誰かが引き継ぐのは必然のこと。

 引き継がれた瞬間、今までの俺が行ってきた不正な横領はバレる。

 バレたら最後、横領して殺された人と同様俺も同じ運命を辿ることになるだろう。

 考えが巡った結果、小骨が取れてスッキリした俺の額から滝のような汗が流れ出ていた。


「や、やばい……」

「はい?」

「停めてくれ! 出世街道なんてごめんだ。俺は現状維持でいい! 元の仕事に戻してくれ!」


 俺は生まれて初めて仕事を断った。子供のように駄々をこねて車から降りようとする。


「黒鉄様。どうしたんですか。急に。おい! 止めろ」


 両側に座る黒服に無理やり抑え付けられる。


「離せ。このままじゃ、俺は殺される!」

「何を言っているんですか。手に負えん! おい。睡眠薬で眠らせろ」

「嫌だ! 行きたくない。帰らせてくれ」


 ゲームマスターという出征街道に進んだ瞬間、俺の横領が発覚する。

 そうなれば必然的に組織に殺される。これはもう、決定事項だった。

 睡眠薬が効くまで俺は最後の最後まで抵抗した。

 しかし、そんな抵抗も虚しく俺は帰ることはできず、デスゲームの会場へと運ばれることになった。

 


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