第7話 参加者集合の時


「はぁ、はぁ、はぁ。今日で四日目。一体、いつまでここに閉じ込められるの。私が何をしたって言うの?」


 甘栗百仁華あまぐりもにかは限界を感じていた。体力的にも精神的にも疲れ切っている。

 狭い牢獄に連れてこられて最低限の食事と水を与えられるだけで特に何も説明がないままである。不安と体力の限界で意識が朦朧とした様子だった。


「まぁ、ここを脱出できたとしても私には行く宛てなんて無いんだけどね」


 半分諦めた様子で甘栗は冷たい床に腰を下ろした。


「それにしても用意されたこの服はどういう意味があるのかな」


 渡されたものを素直に着替えた甘栗の姿は露出が多めの天使コスチュームである。

 すると、天井から一台のモニターが降りてきた。

 パッと画面が映し出されると甘栗の不安はピークに達していた。


「ん? 写っている? やぁ、参加者諸君。いかがお過ごしかな?」


 俺は不安がありながらも参加者に向かって喋り掛けた。


「カラスの被り物にマント? だ、誰?」


 甘栗は画面越しの俺に反応した。


「今日まで参加者諸君は不安だったと思う。しかし、それも今日で終わりだ。いや、今日から本番かもしれないな」


 モニタールームには参加者が一望出来るが、参加者からしてみれば俺の姿しか見えていない。

 どういうこと? 何が始まるの? と、不安の声が耳に入ってくる。

 少しずつ俺は参加者に説明を加える。


「君たちがここに連れてこられた理由は他でもない。デスゲームを開催します」


 デスゲーム? と、日常では聞き慣れない単語に参加者たちは不安の声が広がる。


「選ばれた参加者諸君。生き残りを掛けて存分に足掻いてくれ」

「待って下さい。デスゲームって何ですか。一体、私たちが何をしたって言うんですか。冗談は辞めてここから出して下さい。これは犯罪ですよ。あなたは一体何者なんですか?」


 甘栗は懸命に質問を投げかける。


「君たちの言いたいことはよく分かる。いきなり連れてこられて混乱するのも無理はない。しかし、これは君たちの招いた結果だ」


 俺は大まかに参加者として選ばれる条件を分かりやすく説明する。

 勿論、それで納得出来るものではない。


「お、お願いします。お金なら払います。だからこんな訳の分からないゲームから離脱させて下さい」

「金を返す宛てでもあるのか?」と、俺は甘栗に対して厳しい発言をする。

「そ、それは……働いて返します」

「へぇ、何年掛かるかな。例え、働いて返そうとしても利子で借金が膨らむばかりだ。それは参加者にとっても厳しいだろう。そこでだ。このデスゲームを制覇したあかつきには借金チャラ。晴れて自由の身だ」


 俺は参加者を揺さぶる。何年、何十年と働いて借金を返すのとこのデスゲームを勝ち抜くか。どちらが楽か。


「でも、死ぬかもしれないんですよね?」と甘栗は恐れながら聞く。

「当然だ。しかし、ここに連れてこられた時点で君たちに選択の余地はない。デスゲームの強制参加だ」


 突きつけられた事実に参加者たちは泣き叫んだり、頭を抱えたり、命の危機という状況に動揺が隠せなかった。


「それではゲーム会場に案内しよう。前に進みたまえ」


 牢獄の鉄越しは遠隔操作により開かれた。

 参加者は他に選択肢がない。前に進むしかない。

 連れてこられて初めて移動するその先には長い通路になっていた。

 通路を抜けるとそこには巨大な空間が広がっていた。

 白に覆われたその空間はドーム状になっている。

 そこで初めて参加者同士、顔を合わせることになる。

 十人の参加者。全員女性で皆、天使のコスチュームをしている。


「ようこそ。参加者諸君。デスゲームスタート地点へ」


 ドームの中央には俺が映る巨大なモニターが天井から吊るされている。

 顔を合わせた参加者たちは探るように相手を観察する。

 味方なのか。はたまた敵となるのか。その真意が分からない状態は何とも言えない。

 すると自分たちが来た通路の道が塞がれた。もう後戻りは出来ない。

 元々、逃げることはできないため後には引けない。前に進むだけだ。

 参加者たちは俺を睨むように画面を見ていた。

 理不尽なゲームの主催者を恨むような目である。


「あ、あの!」


 そこで声をあげた一人の人物に参加者は注目する。

 その人物は甘栗百仁華である。


「ゲームに参加することは承諾します。ただ、一つお願いがあります。生き残った時には借金のチャラと同時に賞金を出して下さい。例え生き残れても無一文では生きていけません」


 甘栗の発言は他の参加者にも言えることだった。

 生き残ったとしてもその後の宛がないのは皆同じ。それを聞いた俺は考える。


「よかろう。ゲームで生還を果たしたものは一千万円の賞金を出す」


 それを聞いた参加者はざわざわと目の眩む賞金に魅力を感じていた。


(黒鉄様、よろしいのですか? そんなことを言って)


 後ろから藍華が小声で問い掛ける。


(心配ない。それくらいの金は何とでもなるから)


 まぁ、横領した金だけど。とは言えなかった。

 ただ生き残るだけでは参加者としても理不尽だ。何かご褒美が欲しい気持ちも分かる。

 俺だってこんなことやりたくてやっている訳ではない。全てはやらされているのだ。参加者同様、俺も同じ立場だ。マスクの下で俺は唇を噛み締めて決意を固めた。


「それではこれよりファーストステージのゲームの説明をする。一度しか言わないから聞き逃しのないように。尚、質問等一切受け付けない。説明を終えたら即刻、ゲーム開始だ。参加者諸君の幸運を祈る」


 参加者は誰も反論しない。俺の説明を聞くため、ジッと息を潜めていた。


「ゲームの内容は脱出ゲーム。クリア条件は脱出の成功だ。制限時間は無制限。ゲームオーバーの条件はこちらの判断でこれ以上、ゲームを続けることができないと判断した時である。気を失ったり、負傷したり、リタリアを宣言したりと様々だが、それゲーム中に判断させて頂く。大まかなルールはそんなところだ。一つ忠告するとすれば死神に気をつけることだ。説明は以上。生還を祈る」


 死神? と、参加者は揃えて頭の中では【?】が浮かんだであろう。


「ゲーム開始だ!」


 パチンと俺が指パッチンをした次の瞬間、参加者の足元の床が無くなり、地下へ落下してしまう。


「え? え? いやああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」


 足掻く間も無く、参加者たちは悲鳴と共に落とし穴に飲まれるように落ちる。

 突然始まったファーストステージ。心の準備をする間も無く参加者たちは絶叫と共に下へ下へと落ちていく。

 どうにか生き残って欲しいとゲームマスターらしからぬ思いを秘めていた俺はかなりの変わり者だと思う。

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