第25話 孤島での休息〜その10〜
垣根五和は俺に自室に来るように言った。
同じ家に住んでいるが、俺は一度も個室には訪れていない。
スーッと深呼吸をして俺は扉をノックする。
「どうぞ」
返事があり俺は扉を開けた。
「何か用?」
「お前が呼んだんだろ」
「嘘、嘘。入って」
垣根は風呂上がりのようで金髪がしっとりとしていた。
普段はゆるふわになっている分、多少のギャップを感じた。
「どうしたの?」
「いや、別に。それで用っていうのは?」
「まぁ、座ってよ」
垣根はベッドに座るように指示をする。
いいのだろうかと思いながらも俺は座った。
「あれから私のやりたいことリストにいくつか加えたの。書いてみると意外とやりたいことってたくさんあるみたい」
「た、例えば?」
「海外旅行に行ってみたいし、船に乗って釣りをしてみたいし、スカイダイビングをしてみたい。後は結婚して、子供ができて、孫が出来て三世帯集まって美味しいものを食べたい。言い出せばキリがないよ。でも今の私にはそれらをできそうにないな」
「何でだよ。やればいいじゃないか。今から少しずつやっていけば出来るはずだよ」
「それは生きていればの話でしょ。デスゲームに負けたらそんな夢は一つも叶わない。何も叶えられずに終わっちゃうんだよ」
「何で今からそんな弱気なんだよ。生き残ってやりたいことをやればいいじゃないか」
「……私さ、ここに連れてこられる前は不登校だったんだよね。何でだか分かる?」
確か、垣根五和の参加者リストには不登校で母親の育児放棄をされたと書かれていた。結果だけ書かれていたのでその経緯はリスト上では分からない。
「クズ親に見放されたことは勿論だけど、不登校になる前に私、虐められていたんだよね。狙い撃ちにされていたって感じ? そのせいで大きな代償を背負うことになった」
「代償?」
「引かないでね」
そういうと垣根は服を脱ぎ出した。
「ちょ、垣根。何を脱いでいるんだよ」
俺は咄嗟に手で目を隠した。
「阿久弥。見てよ」
「いや、でも……」
「阿久弥にだけ見てほしいの」
パッと垣根は俺の手を取り払った。
その瞬間、俺は垣根の裸を見てしまった。
「それって……」
垣根の体は至る所に火傷のような痕があった。
それは見ているだけで痛々しいものである。
「熱湯を掛けられたり火の付いたタバコを押し付けられたりされたの。私は皆のオモチャにされたんだよ」
そういえば垣根は服や髪で肌の露出は控えめだった。
派手な髪色は身体の痣を隠すためなのか。
「引いた?」
「いや、同情するよ」
「この身体じゃプールにもいけないしエッチもできない。私の肌、汚いから。このリスト盗み見した時、見たよね?」
垣根はリストを見せて【エッチをしてみる】の項目に指で示した。
「この項目、叶えてくれないかな? しないよりかはした上で死にたいし」
「それはできない」
「できない? 汚い私の身体ではできないってことか」
「違う。そういうことはちゃんと好き同士でやるべきだ」
「阿久弥は大人の男性だと思っていたけど、中身は子供ね」
「どういう意味だよ」
「今時好き同士としかしないって古いよ。今はビジネスですることもある。私はこの体では稼ぐこともできない。だから人助けだと思ってお願いできないかな?」
垣根は俺に行為を迫った。
だが、俺は優しくその手を抑えた。
「ありがとう。俺に秘密を打ち明けてくれて」
そう言いながら俺はそっと垣根を抱き寄せた。
「阿久弥?」
「生き残る自信がないんだろ? だからここで手早くやりたいことをやろうとしているんだよな。だったら生き残った時までとっておけ。生き残って今以上にやりたいことリストを増やしてやるからさ」
「うん。私、生き残れないと思う。気持ちが負けちゃうの。生き残れないって勝手に思っちゃう」
「気をしっかり持て。お前は最後まで生き残れる! 絶対できるよ」
「……ありがとう」
俺は垣根に上着を着せてあげた。
きっと今以上に埋めてやる。そう強く言い聞かせた。
「ねぇ、今日は人の温もりが欲しい気分なの。私の最初で最後のわがまま聞いてくれる?」
「それは……」
「えい!」
垣根は俺を強引にベッドに押し倒した。
「あったか〜い」
人の温もりが嬉しかったようでぎゅっと垣根は俺を抱きしめた。
こんなはずじゃなかったけど、今夜だけだぞと思いつつ、俺は抵抗することなく受け入れた。
「おやすみ。垣根」
「うん。おやすみ。阿久弥」
デスゲームセカンドステージ開催まで残り三日を切った。
それまでのスローライフは平穏に過ごさせてほしい。
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