第26話 孤島での休息〜その11〜


 セカンドステージ開催前日の早朝のことである。

 俺はトイレに行きたくなり自室から階段を降りた。


「米津?」


 丁度、リビングで水を飲んでいるところに鉢合わせした。


「あぁ、白鉄さん。早いですね」

「いや、ちょっとトイレに起きただけだ。お前こそ早いな」

「日課のランニングに行くところなんです」

「ランニング? まさか毎日走っていたのか?」

「えぇ、そうですけど」

「明日から本格的に体力を使うことになるんだ。今日くらいは身体を休めた方がいいんじゃないのか?」

「そうしなきゃいけないというのは分かっているんですけどなんか気持ち悪いんですよね。ほら、毎日歯を磨かないと落ち着かないような感覚なんですよ」

「それは分かるけど、無理して本番に響いたら元も子もないだろ」

「んーそうですね。じゃ、今日はいつもの半分くらいに抑えることで手を打ちます」


 休むという選択肢はないようだ。こういう美意識の高いやつは一度決めると絶対に曲げないのかもしれない。


「それじゃ、行っています」

「ちょっと待て」

「なんですか?」

「俺も付き合うよ。五分! いや、三分だけ待ってくれ。すぐ支度する」


 俺は慌ててトイレと着替えを済ませて米津に合流した。

 海辺で俺と米津は横並びで走る。


「無理しなくてもよかったのに。なんで来たんですか?」

「お前が無理していないか監視するためだ」

「そんな心配必要ないですよ」


 海辺の砂で足が取られて走りにくい。だが、米津は関係なしにスイスイと走り抜けてしまう。


「いつもどれくらい走るんだ?」

「朝は十キロくらいですかね」

「十キロ? そんなに?」

「またこれが気持ちいいんです。お金を使わず気分がいい趣味ってランニングとか筋トレだと思うんですよ。あぁ、生きているって感じがするんです」

「す、凄いな。将来、アスリートになるつもりか?」


 そういうと米津は足を止めた。


「私なんてまだまだですよ。才能のある人なんていっぱいいる。それに信じていた人に騙された時にはもう遅かった」

「それって……」

「私は高校時代のコーチに憧れていた。というより好きだったかもしれませんね。その人のために。その人の期待に応えたくて私は陸上で人生を費やした。だけど、全国大会に出場して真っ先にコーチに褒められたかったけど、コーチは私じゃなくてもっと優秀な生徒を褒めた。上には上がいるって戒められた時だったよ。でもそのコーチは私に特別支援の学校に推薦してくれたの。私は嬉しかった。でもそこはお金だけ取って指導も待遇も何もしてくれない名ばかりの学校だった。裏でコーチと学校が繋がっていてお金のやりとりがあった後で聞いた。私の存在価値は高い学費だけで才能なんて全く見てくれていなかったんだなって。素直すぎたんだよ。コーチの言うことに疑いが一切なかった。その結果が借金とデスゲーム。正直者の運命がこれだから人って騙した勝ちなところがあるんだよね。あはは」


 はにかんで笑っているが、ただの強気で悔しい感情が溢れていた。

 米津はある意味、被害者。こんなくだらないデスゲームに参加されられるなんて間違っている。


「一緒に勝ち抜こう」

「え?」

「デスゲームを勝ち抜いて再スタートするんだ。俺はお前の才能があると確信している。その才能を消したら何も報われないよ」

「励ましているつもり? でも大丈夫だよ。別に悔いていない。あの時の選択は間違っていたかもしれないけど、後悔はしていない。少しでも夢を見させてくれて感謝しているくらいだよ」

「だったら夢じゃなくて現実にしようよ。米津七海はこんなところで終わらない。今度はきっと羽ばたけるステージが待っているよ」

「私を騙そうとしているって訳じゃなさそうだね。何でそこまで真剣になってくれるの?」

「デスゲームは最後の墓場じゃない。再スタートするための場所だ。米津だけじゃない。栗見も垣根も椎羅も俺だって失敗したからここにいるんだ。だったら次は報われるべきだ。そうだろ? 俺は皆と笑って過ごせるような日常を取り戻したい」

「笑って過ごす……か。それはもう叶っているよ。この孤島での生活は色々あったけど、楽しかった。こんな囁かな休日は今までなかったくらい平穏で何もない生活を送れたなって思う。いつまでも続けばなって思うけど、それも今日で終わり。また誰か死ぬって思うと今日が永遠に続けばいいのにって思うのが正直なところ。でもそんなわがままも言っていられないね。この身体が生きている限り、私は走り続けたいと思う。死ぬギリギリまで」

「米津……」

「というわけでここが折り返し地点だからコテージまで競争しよう」

「競争? 何で?」

「付き合うって言ったのは誰かな? それじゃ行くよ。位置について……用意……ドン!」


 米津と俺は走った。


「今日一日、負けた方が勝った方のマッサージね」

「はぁ? そんな急に条件を付け足すとかずるいぞ」

「ほら、早く! 文句を言う暇があったら足を動かす」


 米津は余裕の表情を向けてわざと足を遅く動かす。

 完全に舐められている。


「クッソ! 負けないぞ!」


 俺はムキになって手足を動かして加速した。


「おっ! いいね。速い、速い。でも私に勝てるかな?」


 ヤケクソになってコテージまで全速ダッシュをするが、陸上で全国出場を果たした実績は健在で俺は五十メートル離されてゴールとなった。

 当然、米津に勝てるはずなどない。


「私の勝ち。というわけで分かっているよね?」

「マッサージだったな。ずるいなぁ」


 ん? 俺は考えてみれば米津の身体を直接触れるってことになるよな。

 いや、これはただのマッサージ。変な感情は捨てろ。

 米津は終始変な声を出していたが、マッサージは苦手だと発覚した瞬間だ。

 そんなこんなでデスゲームセカンドステージ当日を迎える。


⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎


すみません。

思ったより伸びなかったので打ち切りになります。

セカンドステージ楽しみにして頂いた読者様

申し訳ない!

次回作、すぐ作ります。

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デスゲームのゲームマスターは横領で組織から命を狙われています〜少しでも長生きしようと参加者たちに混じって孤島でスローライフをしようと思います〜 タキテル @takiteru

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