第5話 ゲームマスター選抜の裏側※組織側視点
「次のゲームマスターの詳細はどうなっている?」
組織のトップメンバーには五人の権力者が存在する。
そのうちの一人。ペンネームはライム。権力が上がれば上がるほど本名で呼ばれることはない。個人情報は機密事項であるのだ。
ライムは大柄で肉体派の人物である。服の上からでも分かるくらい筋肉が盛り上がっている。近づく者に威圧を与える存在であり、恐れられることが多い。
「はい。優秀な逸材を確保しております。経歴書をご覧下さい」
黒服はライムに資料を渡す。資料に目を通したライムはフムフムと頷く。
「ゲームマスター歴は十年。デスゲームは二十回ほど経験があるのか。まぁ、悪くないな。しかし、何というか。ちと、新鮮味に欠けるな」
「と、言いますと?」
「新しい発想がない。毎回同じような展開でスポンサー離れがあると聞く。言ってみればマンネリ化だ。これでは盛り上がりに欠けるだろう」
「はぁ。しかし、他に優秀な人材がいないので何とも……。ライム様、ご納得頂けませんでしょうか?」
「まぁ、いい。今回はこいつで行こう。今から新しい人材を確保するのも手間だしな」
「はっ! では次のデスゲームの準備を彼で進めさせて頂き……」
その時である。慌しくライムのいる部屋に別の黒服が入ってきた。
「た、大変です。ライム様!」
「……何事だ。今、大事な打ち合わせ中だ」
少し苛ついた口調でライムは言う。
「も、申し訳ありません。しかし、至急耳に入れておきたい情報がありまして」
「……言ってみろ」
「申し上げます。先ほど
「何だと?」
塚越というのはたった今、次のデスゲームのゲームマスターに任命しようとしていた人物である。その人物が横領をした事実が発覚した。
「今、組織の人間が追っております。あいつ、今まで得た売り上げを隠していたんです。台車に現金の入ったダンボールを積んで運ぶ様子が監視カメラに記録されております。今頃、海外に飛んでいるかもしれません」
ライムは歯切りをした。組織として裏切り行為は御法度である。
「絶対に探し出せ。見つけたら即刻処分しろ。いいな?」
「はっ! 全総力を掛けて見つけ出します」
報告をした黒服は現場に戻った。
「ど、どうしましょう。次のデスゲーム。既に参加者をかき集めているところです。一旦、中止にしてゲームマスターの手配が出来てから再開しましょうか?」
決まりかけていたゲームマスターがまさかの逃亡。あり得ない状況にライムも一瞬困惑していた。しかし、冷静さを取り戻したライムは告げた。
「ふふふっ。丁度いいではないか。これはもしかするとチャンスかもしれんな」
「はい?」
「優秀な逸材はもう充分だ。経験は愚か、デスゲームにすら関わりのない人間にやらせてみようではないか。例えば、現場とは無縁の事務仕事をしている新人とか」
「それはちょっと、どうかと。せめてデスゲームに関わりがあるものから選んだ方がいいかと」
「言ったであろう。スポンサーは新鮮味を求めておられる。ならば未経験の人材で試してみようではないか」
「しかしそれで失敗したら元も子もないのでは?」
「お前も知っているだろう。ゲームマスターの評価が低い時の代償を」
「まさか捨て駒にするつもりですか?」
「才能がなければそうなる。それはそれでスポンサーも喜びになられるだろう。もう何年もゲームマスターが地に落ちた姿を見ていない。どっちに転んでもスポンサーとしては新鮮味があって喜ばれるだろう。だったら試す価値はあると思わんか?」
「そうかもしれませんが、そんな都合の良い逸材がいるのでしょうか」
ふと、黒服は社員データを確認した。
「ええい! ちょっと見せてみろ」
ライムは強引に黒服から社員リストを奪い取った。
パラパラとページをめくり、ライムはとある人物に目が止まった。
「いるではないか。こいつにしろ。組織には似合わない真面目な人間。こういう人間が実はゲームを面白くするかもしれん」
「黒鉄阿久斗。彼は組織の事務員です。真面目だけが取り柄で現場の仕事とは無縁ですよ? いくら何でも無茶振りでは?」
「だから良いのではないか。うちの組織は理不尽極まりない事が売りだろ? これくらいの理不尽さは許容範囲と思わんか?」
「は、はぁ……。そうですね」
黒服は言わされているようで頷いた。ライムに反発する者はなかなかいない。大半の黒服たちはライムの指示に従うしかない。
「決まりだ。よし、こいつを早速、ゲームマスターに任命しろ。そうだな。サポートは愛上にやらせよう。全くの未経験だと心もとないからな。サポート経験が豊富な愛上なら問題なかろう」
「し、しかし良いのでしょうか。そんな一か八かみたいなことをしちゃって」
「俺が良いと言っているんだ。さっさと段取りを進めろ。それとも俺の言う事が聞けないとでも?」
圧を掛けられた黒服は否定する事が出来なかった。
「分かりました。すぐに手配をさせて頂きます」
黒服は手配のため、慌しく部屋を出た。
「黒鉄阿久斗か。あまり期待していないが、せめてスポンサーを楽しませる材料になってくれればいいだろう。お手並み拝見といこうか。ククク」
ライムは黒鉄の顔写真を眺めながら不敵な笑みを浮かべた。
こうしてゲームマスター逃亡の穴埋めが決まってしまう。
当然、本人の意見など聞くわけなく決定事項である。
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