第6話 横領発覚※組織側視点
「フゥ。これで穴を開けずに何とかなりそうだな」
ライムは次の後継者の埋め合わせをした事で満足した様子である。
椅子に深く腰を埋めていた時である。
「ヤッホー。ライムちゃん。聞いたよ。ど新人にゲームマスターを任せたんだって?」
そこに現れた人物にライムは怪訝そうに振り向いた。
「……ティアラか」
組織のトップメンバーであるライムに対してフランクに喋りかける人物はコードネーム、チィアラである。
小柄でピンク髪の派手な見た目の彼女は同じくトップメンバーの一人である。
主にスポンサー側を操作する最高責任者である。
軽い口調の毒舌で人が苦しむ姿を何より好む性格している女狐だ。
組織のメンバーから恐れられる存在で目を付けられた者は廃人になると噂が流れるほどだ。年齢は不詳だが、その見た目は二十代にしか見えない。
「で? どんな奴? ゲームマスターを任された不幸者は」
ティアラは興味深そうにライムに擦り寄る。
「こいつだ」とライムは社員リストを差し出す。
「ふむふむ。黒鉄阿久斗? 知らないなぁ。でも組織に似合わない真面目だけが取り柄って感じでつまらなそう。何でこんな奴をゲームマスターにしたわけ?」
「お前も言っていたであろう。スポンサーのマンネリ化が進んでいると」
「あぁ、そうだね。お偉いさん方も刺激が欲しいって口コミがよくあるんだよね。それでデスゲーム歴の無い新人を選んだって訳? そいつ元々どこの部署よ」
「事務員だ」
「じ・む・い・ん? 何それ。現場経験もないって事でしょ? そんな奴にゲームマスターが務まるの?」
オーバーリアクションでティアラは否定する。
「だからこそだ。新人の新しい発想も取り入れようと思ってな」
「はぁ、それは思い切り過ぎでしょ。まぁ、デスゲームの責任者であるあんたが決めたらない仕方ないけどさ。それでスポンサーをガッカリさせたら私の責任になるんだよ? それについてどう感じているわけ?」
「安心しろ。ガッカリデスゲームになったら本人に責任を取らせるさ」
「責任ってまさか」とティアラは悪い顔を浮かべた。
「そう、本人直々に死を体感してもらうことになる」
「何それ、面白そう。過去にそんな奴居たよね。全く盛り上がらなかったデスゲームのゲームマスターが責任取ったやつ。精神崩壊して骸人形になったんだよね。あの時はウケたなぁ」
「どっちに転んでもそれならスポンサーは喜ばれるだろう」
「ライムちゃんも人が悪いなぁ。普通は現場経験をしてからゲームマスターをするのに実践も何もなしでゲームマスターにさせるってことは死ねって言っているようなものじゃない。そいつに恨みでもあるわけ?」
「別に。真面目そうな見た目が癇に障っただけだ。組織には似合わんと思ってな」
「何それ。理不尽すぎ! 悪趣味だね。ライムちゃん。何か嫌なことでもあった?」
「全ては奴の裏切りだよ」
「あぁ、元々選ばれていた塚越って奴? 彼の開催するデスゲームは悪くないんだけど、捻りがないと言うか信憑性に欠けるんだよね。確か横領して逃げたって聞いたけど、その後どうなったの?」
「海外へ逃げようとしたところ、組織のメンバーが見つけ出したよ。だが、一つ問題があってな」
「問題?」
「金をどこかに隠したらしい」
「そんなの拷問でも何でもして吐かせればいいじゃない」
「当然、実行済みだ。しかし、なかなか吐かない。吐かないまま死なれても困るわけだ」
「じゃ、私の部下に拷問のプロがいるからそいつを派遣するよ」
「そうか。それは心強い。頼むよ。ティアラ」
「お任せあれ」
組織のトップメンバーの二人の悪巧みが盛り上がっている時であった。
「大変です。ライム様!」
黒服は慌ただしく入室して言った。
「騒々しい。何事だ!」
「も、申し上げます。横領が発覚しました」
「またか。一体、どこのどいつだ」
「そ、それが……黒鉄阿久斗です。彼の引き継ぎをした者からの情報です」
「黒鉄って次のデスゲームのゲームマスターの奴じゃない」
ティアラは言う一方、ライムは歯切りが止まらない。
「どう言うことだ?」
「はっ! どうやら黒鉄はマイナスの案件をプラスになった案件から少しずつ移動させていたようで組織の業績が伸びていたと思われていたんですが、実は赤字です」
「赤字ってどれくらい?」
黒服からデータを見たライムの表情が曇った。
「うわぁ。これって塚越の横領と訳が違うね。彼の五倍くらい横領しているじゃない」
横からデータを見たティアラは助言する。
「おそらく赤字分は黒鉄しか行方を知りません」
「くっ! 何故、今まで気付かなかった? お前らの目は節穴か?」
「も、申し訳ありません。簡単なデータ入力だったので今まで黒鉄以外誰も関わっていなかったので見落としておりました」
「馬鹿者! 金の管理は最も責任重大だ。そこがザルだったら意味がないだろう!」
「申し訳ありません」
データ上でしか金を把握していなかった分、実際の金の行方は把握してなかったと言う組織として致命的なミスである。
「ちっ。グチグチ言っていても仕方がない。黒鉄を即刻とっ捕まえて金の在処を吐かせろ」
「そ、それが出来ません」
「出来ないだと? どう言うことだ」
「既にデスゲームは始まっております。デスゲーム中に手出し出来ません」
「諦めなよ。ライムちゃん。こっちの事情でデスゲームを勝手に中止させると組織全体の責任問題になる。ここはデスゲームが終わるまで待った方が無難だと思うけどなぁ」
と、ティアラはライムの肩に手を置いた。
「しかし、そんな悠長なことを言っている場合では……」
「大丈夫だよ。新人ちゃんはファーストステージが終わればスポンサーに見放される。そうなったあかつきには処分と同時に金の在処を吐かせればいいじゃない。それまでの辛抱だよ。逃げないように私の部下を配置してあげるよ。どのみち黒鉄阿久斗の逃げ道はないんだから」
「仕方あるまい。黒鉄阿久斗の無残な姿を見物するとしようか」
冷静を取り戻したライムは深呼吸をした。
ファーストステージが終わったその瞬間、黒鉄阿久斗の最後だと高を括る。
そして現在、黒鉄は参加者にゲームの説明に入っていた。
デスゲームは既に始まっている。
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