第10話 ファーストステージ〜地下迷宮〜その3
ファーストステージ。地下迷宮をいち早く脱出したのは
十七歳。茶髪のストレートで童顔眼鏡が特徴だ。無口で人付き合いが苦手な性格をしており、デスゲーム開始前から今の今まで言葉を発していない。
感情が読めないこともあり、頭の中を覗かない限り彼女の素性は分からない存在であった。
デスゲームに連れてこられた経緯はクズ親の借金の肩代わりであり、抵抗することもなく素直に受け入れたと言う。
今回の参加者の中で全く注目していないこともあり、今回の一抜けがゲームマスターの俺を含めて関係者は不思議な様子であった。
「何が起きた? 脱出路はこちらから操作しない限り閉ざされたままのはず」
すると、椎羅千穂李を追っていた関係者は報告した。
「黒鉄様。解析されました。脱出路の遠隔ロックを見破られました」
「バカな。コンピュータも何もないはずなのにどうやって?」
「ドローンで追っていた彼女の映像をご覧下さい」
映像を確認すると、椎羅は落とし穴で落ちた場所から手で壁を調べ始めた。
壁、床、天井など無言でただ意味がないようで意味があるような行動を見せた。
すると椎羅は何かに気付いたのか、壁をノックして音の感触を聞き分ける。
そして隠し扉を見つけて壁の中へと入る。感覚を掴んだ椎羅は同じ方法で行き止まりを突破して通常のルートから外れた道を進む。
その結果、予想外の脱出を果たしたわけだ。
「おい。何だ? あの隠し扉は?」
「あれは緊急用の扉です。参加者に不測の事態が発生した場合、管理側がスムーズに現地に行くために設計されたものです」
「参加者の脱出に利用されたら意味がないだろう」
「も、申し訳ありません。しかし、普通はあんな仕掛けに気付かないはずなんですが我々も予想外で」
ザル過ぎる管理になっていた。やるならロックするなど絶対に参加者側から使えないように対策するべきだ。
まんまと椎羅はそれを見破り脱出を果たしてしまった。
「椎羅千穂李の行動は意外でしたが、幸い他の参加者には知られていません。彼女の無口が幸いをもたらしましたね」と藍華はフォローを入れる。
「くっ! せっかく盛り上がるタイミングだったのに仕方がない。残った参加者に例の仕掛けを発動する」
「クリアした椎羅千穂李はどうしますか?」
「藍華さんに任せる。俺は次の準備に取り掛かる」
「承知致しました」
椎羅はクリアした実感が無いのか、ずっと追ってきているドローンを睨んでいた。だが、それに構っているほど今の俺は余裕がない。スポンサーが喜ぶ仕掛けを発動しなければならないからだ。
「はて? 誰かがクリアしたアナウンスが聞こえた気がしたような……?」
地下迷宮探索中の
「こうしてはいられませんね。私も早く脱出しないと。しかし、どこを歩いても正しい道が分からないなぁ。困った」
そんな時である。栗見百仁華の前方に不穏な影が見えた。
「何か居ますね。他の参加者でしょうか? おーい! 参加者さんですか? 私、栗見百仁華と言います!」
不用意に影に向かって駆け寄る栗見。だが、栗見の予想とは裏腹に現れたのは戦車である。参加者どころか人ですらない。
「へ?」
思わず栗見は顔が固まる。それもそのはず。
戦車の先端にはガトリングガンが備えられている。
その銃口は栗見に向けられた。
「う、嘘でしょ!」
すかさず後方へ逃げたと同時に弾が連射された。
ガガガガガガッ! と、見境なしに狙い撃ちする。
「きゃああああああ!!」
それは栗見だけではない。他の参加者たちも同様、戦車による連射攻撃が繰り広げられている。
まさかの仕掛けに参加者たちは必死に逃げ惑う。
「よし。作戦は順調だな。このままギリギリまで参加者を追い詰めてくれ」
俺は戦車を操作するメンバーに指示をする。
死と隣り合わせという恐怖が参加者を苦しめる。
当然、その姿を見たスポンサーは歓喜のコメントが来るだろう。
「頼む。何とか生き延びてくれよ」
俺は祈りながら画面を凝視していた。
これは脅しでも何でもなく本気のものだ。
ただ、危ないため弾は睡眠弾に変更してあるが、当たったら痛いことは痛い。下手をしたら痣になることだって考えられる。
「あの、黒鉄様。大変です」
藍華は大変と言いつつも冷めた口調で俺の背後から言う。
大したことではない聞こえ方をしたので俺は言った。
「後にしてくれ。今、忙しい」
「ですが……」と藍華は引かない。
「そのまま言ってくれ。ギリギリを外すのも結構難しいんだぞ」
「では申し上げます。先ほど脱出をクリアした椎羅千穂李ですが、別室に案内しようとしたのですが、再び地下迷宮に戻ってしまいました」
「はぁ? どういうことだ?」
「あ、今ちょうど画面で確認できます」
藍華の示した画面には来た道を引き返す椎羅千穂李の姿が映っていた。
「どういうことだ?」と問題児の存在に俺は頭を抱えることになる。
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