第22話 ゴマ油の匂いがする女

 

「アイナ嬢、何故、屋敷に入ってきてるのかな?

 家の者には、ドレスナー伯爵家の者が訪れても、絶対に屋敷に入れるなと命令してた筈なのだが?」


 アーモンド侯爵は、リーナ向けて冷たく言い放つ。


「全て、分かってます。臭いリーナにアーモンド侯爵は、怒ってるんですよね!

 私が悪かったんです。

 リーナに、何度もお風呂に入るように言ったのに、リーナは私の話を聞かないんです!」


 何を言ってるのか、アイナがトンチンカンな事を言っている。


「アイナ嬢、リーナ様が臭いとは?

 私には、全くの無臭。逆にフローラルの良い匂いがするのだが?」


 そう、現在、リーナはお風呂大好きになって、毎日、お風呂に入ってるのである。

 そして、ライムにも、毎日、足の間の隅々までケアして貰ってるので、臭い所など1つもないのである。


 もっと言うと、馬車旅のせいで、2日間お風呂に入ってないアイナの方が臭かったりする。


「そんな筈は……」


 アイナは、完全な思い込みで、リーナの事を臭いと思ってたのだ。

 だけれども、現在のリーナは無臭。逆に、自分の方が臭いくらい。


「それから、君は、息子のエドモンドにも臭いと言ったようだな?」


 アーモンド侯爵は、アイナを睨みつける。


「そ……それは……」


 アイナが口ごもってると、騒ぎを聞き付けた、エドモンド様や、アーモンド侯爵夫人、それからシャーロットちゃんまでが、アーモンド侯爵の書斎に勢揃いする。


「アイナ嬢、僕のどこが臭いのだろう?

 逆に、君のほうが、物凄く臭いのだが?」


 やはり、アイナに臭いと言われた事を根にもってるエドモンド様が、アイナに言い放つ。


「え……何で……エドモンド様……治ってる?」


 アイナが、ゾンビでなくなってるエドモンド様を見て、驚愕している。


「ああ。リーナに治して貰ったんだ。僕だけじゃなく、母上と妹のシャーロットもね!」


 エドモンドは、アーモンド侯爵夫人と、妹のシャーロットを見る。


「ええ。私も臭いゾンビだったのだけど、リーナちゃんに治して貰いました」


 ここで、アーモンド夫人が、リーナちゃん呼び。

 今日、初めて言われて、リーナは思わず困惑してしまう。


「私も、リーナお姉ちゃんに治して貰ったの!

 そして、アイナは嫌い! 私のお父さんとお母さんと、お兄様を独り占めするから!」


 やはりと言うか、どうやら、シャーロットちゃんは、初めからアイナの事を嫌ってたようである。


「そ……それは良かったです! それなら、何も問題無いです!

 エドモンド様の婚約者は私ですから、リーナがドレスナー伯爵家に戻れば、何も問題無いですよね!

 それにしても、本当に良かったです!

 こうして、エドモンド様が元に戻られて!」


 アイナは、嬉しそうにエドモンド様に近寄り、手を取ろうとする。


 しかし、


 バシッ!


 エドモンド様は、アイナの手をはたき落とす。


「触るな! この性悪女! お前の正体は、もう分かってるんだ!」


「痛っ! アーモンド侯爵様!」


 あざといアイナは、すぐに、目をウルウルさせて、アーモンド侯爵に助けを求める。


「私も、その目に、今迄、騙されてたのだな。お前の正体は、もう、分かってる。

 ゾンビになった息子を切り捨て、リーナ様に押し付けた時点でな」


 アーモンド侯爵は、涙目のアイナを見ても、全く動じない。逆に、汚物を見るような目をして睨みつける。


「私も、本当に騙されてました。今日の今日まで、嘘であってくれと思ってたのですが、全てを知った上で、貴方の行動を見て。

 夫は、ドレスナー伯爵家の者を、絶対にこの屋敷に入れるなと言ってたのに、無遠慮に、ズカズカか屋敷の中に、しかもリーナちゃんの腕を、どれだけ強く握れば、そんなにアザになるような手の跡が付くの?」


 そう、リーナの腕には、くっきりと、アイナに握られた手の跡が付いてたのだ。


「それは、強く握らないと、リーナが逃げると思って……」


 アイナは、ブリッコして言い訳する。


「兎に角、帰ってくれ!」


 アーモンド侯爵は、アイナを突き放す。


「でも、エドモンド様の本当の婚約者は、私なんだから、帰るのはリーナ方ですから!」


 アイナは、急に、逆ギレし出す。

 もう、ブリッコするのも、意味ないと頭を切り替えたのだろう。


「アイナ、君の方から婚約破棄したのだろ?

 僕が臭いからと言って!

 しかも、全く臭くない、リーナ様にまで、臭いとか言って!」


「リーナが臭いのは、本当の事です!」


「はぁ? 本当に、君は、何を言ってるのだか?

 リーナは、初めてあった時から、フローラルの香りだったよ。

 それに比べて、今の君は、香ばしいゴマ油の匂いがするよ。

 お風呂入って、出直して来た方がいいんじゃないか?

 アーモンド侯爵家では、香ばしいゴマ油の匂いがする者は、出入り禁止になってるからね!」


 やはりというか、エドモンド様は、相当、根に持ってる。

 どんだけ、臭いと言われた事を恨んでるのだろう。


 アイナは、キッ!と、エドモンド様を睨みつける。

 いつも、人の事を臭いという癖に、自分が臭いと言われるのが、相当、嫌なのだろう。

 ゴマ油の匂いがする貴族令嬢って、確かに残念だし。


「そういう事だ、早く、帰ってくれ。

 アーモンド侯爵家は、ゴマ油の匂いがする性悪女を受けつけないのだよ!」


 アーモンド侯爵は、アイナを、冷たく突き放す。


「だったら、支度金を払いなさいよ!

 臭いリーナをあげたんだから!

 アーモンド侯爵家は、ドレスナー伯爵家に支度金を払う義務がある筈よ!」


 アイナが、完全に開き直る。

 どうやら、支度金だけは、何としてもゲットして帰ろうと思ってるのだろう。


「貴様は、本当に、支度金を貰えると思ってるのか?

 アイナ。貴様が、ドレスナー伯爵家でしでかした、数々のリーナ様に働いた無礼な行為は、全て調査済みだ!

 アーモンド侯爵家の大恩人であるリーナ様に、酷い仕打ちをしてた、ドレスナー伯爵家に支払う金など、一銭もないわ!」


 アーモンド侯爵は、溢れんばかりの殺気を漲らし、アイナに言い放ったのだった。

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