第10話 クサヤの秘密
「ミミ!」
「ハイ! 全て分かっております!リーナお嬢様!」
ミミは目配せすると、馬車を飛び出し、急いでクサヤを買いに行く。
リーナが、鑑定書き換えスキルで、【超記憶】を与えたミミは、とても優秀なスーパーメイドに育ったのだ。
リーナが、少し目配せするだけで、全てを察し、リーナがやりたい事を先回りして、いつもやって来れる。
そう、お風呂に入る事以外は。
何故か知らないが、ミミは、絶対に一人でお風呂に入らないのだ。
リーナに体を洗ってもらう事が、至上の喜びだと思ってる節がある。
ご主人様に体を洗わせるとは、何事かと思うかもしれないが、それが、リーナとミミが最初に行った儀式だったから。
全てを洗い流し、新たな出発。
それが、リーナとミミの忘れられない思い出。
あの時、リーナに洗われたミミは、貧民街の孤児から、リーナのメイドとして生まれ変わる事ができ、人並みの生活が送れるようになったのである。
一方、リーナも、自分の母親でさえマトモに話せない程の女性恐怖症だったのだが、歳下のミミにみっともない所を見せる訳はいかないので、徐々に女性になれていく切っ掛けとなった水浴びだったのだ。
あの時、真っ黒で薄汚いミミが、こんなに可愛らしい美幼女だと思わなかったし。
兎に角、ミミと洗いっこする事が、リーナの女性恐怖症を治す後押しになってるのは確かなのだ。
ミミ程の美少女など存在しないので、その裸をずっと見ていたら、その辺にいる普通の女性に緊張しなくなるし。
実際、3メートルぐらい離れてたら、赤面しなくなったしね。
とか、ミミとの最初に会った時を思い返してたら、クサヤを大量に買ったミミが戻ってきた。
「こんなに買ってきたの?」
流石に、リーナはミミに聞く。1つあれば十分だと思ってたので。
「もしもの為です。ドレスナー伯爵家と違って、他の領地は、体が腐る奇病の猛威が物凄かったと聞いてましたので!」
流石は、スーパーメイドのミミ。
エドモンド様の事だけでなく、アーモンド侯爵領に行った後の事まで考えている。
「分かったわ!」
リーナは、すぐに馬車の中で準備に取り掛かる。
とは、言っても簡単なんだけど。
「リーナお嬢様……あの、エドモンド様の前でやってしまって宜しいのですか?」
ミミが心配して聞いてくる。
「いいのよ。エドモンド様は信用出来る方だから。私の秘密も、きっと黙っててくれる筈よ! ですよね?」
リーナは、一応、確認の為に、エドモンド様に尋ねる。
そう、リーナが知ってるエドモンド様は、正義感が強く、誰にでも優しい美少年だったのだ。
リーナが、前世の記憶を思い出して引きこもってからも、何度も、心配してドレスナー伯爵家に来てくれてたみたいだし。
まあ、結局、養女になったアイナの色目に陥落してしまったのだけど。
「約束するよ。僕は、決して、リーナの秘密を誰にも漏らさない!」
エドモンドは、リーナの両手を強く握り誓ってくれた。
なんか、腐ったエドモンド様の手がねっとりして気持ち悪いのだけど、なんか気持ちが熱くなってるようなので、我慢する。
例え、ずっと引き篭ってたとしても、リーナは貴族の娘。
自分より地位が高い貴族子息には、ある程度の礼を持って接する事ぐらいは、心得ているのである。
「エドモンド様! リーナお嬢様の手をお離し下さい! リーナお嬢様が困ってます!」
ミミが、リーナの思ってる事を察して、助けてくれる。
エドモンド様に近付かれると、本当に鼻が曲がってしまいそう。とは、リーナは口が裂けても言わないけど。
やっとこさ、臭いエドモンド様が離れてくれたので、改めてクサヤと対峙する。
そして、いつもの鑑定。
名前: クサヤ
鑑定スキルLv.100の能力を極限まで下げて、名前だけ表示させる。これが重要。
まず、クサヤという文字の中で、要らない文字、ヤを消してやる。
名前: クサ
上手くいった。
クサヤを見ると、ただの草になってるし。
それから、このクサという文字に、上限の3文字足すと、
名前: エリクサー
そう、エリクサーになってしまうのだ。
実を言うと、大賢者時代、このエリクサーを大量に作って一儲けしようと思ってたら、あれよあれよというウチに、エリクサーを作れる賢者が居ると祭り上げられて、いつの間にか大賢者と呼ばれるようになった過去があったりする。
でもって、エドモンド様は、突然、ただの臭いクサヤが、瓶に入った液体になって驚いてるし。
そりゃあ、そうなるよね。
本当は、エドモンド様の前ではやりたく無かったのだが、アーモンド侯爵領まで、2日間も掛かるのだ。
リーナ的に、後、5分も、臭いエドモンド様と一緒に居るのは限界なので、とっとと、どんな病気でも必ず治るエリクサーに飲んで貰って、この貧民街のドブ川のような匂いから、解放されたかったのである。
「ハイ。それでは、騙されたと思って、このポーションを飲んで下さいませ!」
リーナは、ずずいっと、エリクサーをエドモンド様に進める。
どうでもいいから、早く飲んでもらいたいのだ。
エドモンド様の優しいお人柄は、分かってるが、流石に臭過ぎる男と一緒には居られないのである。
リーナ自身、もう臭過ぎて発狂しそうだし。
「分かった。リーナがそこまで言うなら、俺はリーナを信じる。例え、コレが毒であったとしても、僕は君を恨まない。アイナと違って、君は嘘でも、僕と結婚すると言ってくれたのだから」
なんか言ってるが、スルー。
もう、何も、臭過ぎて考える事が出来ないし。
なんか、今頃になって、実の父親のドレスナー伯爵が、リーナの事を毛嫌いしてた気持ちが、分かったような気がした。
だって、会う度に、この臭過ぎる匂いを嗅がされたら、そりゃあ、誰だって匂いの発生源が嫌いになると思うし。
『なので、御託はいいので、とっとと飲めっちゅーの!
私が、エドモンド様を嫌いになる前に!』
リーナは、痺れを切らして、エドモンド様からエリクサーを取り上げ、無理矢理、口の中にエリクサーを注いでやったのだった。
すると、どうだろう。
みるみるうちに、腐り落ちたエドモンド様の左目が再生して、ハゲてた髪も、元のフサフサの金髪の髪が復活。腐った体も元通り。
元の綺麗な王子様、エドモンド様に戻ったのであった。
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