第11話 エリクサー

 

「エドモンド様、この手鏡で、一度、自分の姿を見て下さいませ!」


 リーナは、エドモンド様に手鏡を手渡す。


「すまないが……自分の姿など、見たくないのだが……」


 余っ程、腐った自分の姿を見たくないのか、リーナの提案を固辞する。


「でしたら、自分の手を見て下さいませ」


「ん?! 手が……腐ってない……」


 やっと、自分の体が、もう、腐って無い事に気付いたようだ。


「良かったですね」


 リーナは、ニッコリと貴族令嬢スマイルをする。


「えっ?! 何が起こったのだ?」


 エドモンドは、無駄に綺麗な顔を輝かせて、驚愕してる。


「エドモンド様に、エリクサーを飲ませたのです」


 リーナは、事も無げに答える。


「エリクサーだって……もう、エリクサーなど、王家が数本持ってるだけで、存在しない筈だ!

 だって、エリクサーを唯一作れた大賢者モッコリーナ様は、13年前に亡くなってしまったんだぞ!

 そして、10年前に起こった、体が腐る奇病が流行った時、その殆どのエリクサーが消費されたという話だったのに……」


 エドモンド様は、改めて、リーナの顔をマジマジ見る。

 どうやら、エドモンドも、体のゾンビ化を治す為に、エリクサーを散々探してたようである。


「私が、エリクサー作れること内緒ですよ」


 リーナは、自分の唇の前に一本指を立てて、エドモンド様に口止めする。


「それは、約束だから守るが、君は一体……」


「私は、ただのエドモンド様の婚約者です。昔も今も」


 リーナは、現在、ドンドン女性化して来て居る。

 なので、前世の記憶が戻ったばかりの頃より、エドモンド様の事を受け入れられるのだ。

 まあ、エドモンド様が、美形で綺麗というのも関係してると思うけど。


「可愛い……」


「え? 今なんて?」


「いや、何でもない」


 なんか、エドモンド様が、顔を真っ赤にさせている。


 きっと、ゾンビで無くなって、凄く嬉しくて興奮してるのだろう。


「ほら、手鏡で、自分の顔を見て下さい!

 腐り落ちてた、左目も復活してますよ!」


 エドモンド様は、恐る恐る、手鏡で自分の顔を見る。


「ほ……本当だ……」


 エドモンド様は、余っ程嬉しかったのか、瞳に涙を浮かべる。

 美男子は、やはり、涙を浮かべても格好良い。


 大賢者だった時は、男の涙など犬に食わしてしまえとか思ってたけど、美男子の涙は美しいものなのだなと、つい思ってしまってる自分は、やはり、心が女の子になってしまってきてるのかと思う、今日この頃。


 冷静に分析する自分自身が、少し怖くなってくるリーナであった。


 まあ、結論として、馬車の中の匂いが落ち着いて良かった。

 まだ、たくさんクサヤがあるので、臭いのは変わらないのだけど。


 てな訳で、とっとと、全てのクサヤをエリクサーにしてしまう。

 出来たエリクサーは、30本。


 現在のエリクサーの価値は、大賢者モッコリーナが生きてた時より上がって、1本10億は下らない。

 だって、もう誰も作れないと思われてるから。


 残ったエリクサーも、全て、国家権力で王家に無理矢理買い取られてるし。


 てな訳で、現在、リーナは、300億もの大金を持ってる事となるのだ。


 とか、思ってると、


 目の前のエドモンド様が、エリクサーを見て震えてる。


「それって、全て、エリクサーなのか……」


「ええ。絶対に秘密ですよ!」


 リーナは、念を押す。


「リーナがエリクサーを作れるのに、どうしてドレスナー伯爵は、リーナを手放したのだ?」


 エドモンド様が、納得いかにいという顔をしてる。

 だって、リーナさえ居たら、ドレスナー伯爵はお金に困る事ないのだから。

 エリクサーと比べたら、アーモンド侯爵家の支度金など端金なのだから。


「ええ。今日、初めてエリクサーを作りましたので、父、いえ、ドレスナー伯爵は知りません!」


 リーナは、父と言いかけて、ドレスナー伯爵と言い換える。

 実の娘をゾンビに売り渡す男など、もう父親とは言えないのである。


「初めて作ったのか?しかも、クサヤで……」


 エドモンド様は、驚愕してる。

 やっぱり、クサヤでエリクサーを作るのは、どう考えてもおかしいのだろう。

 大賢者モッコリーナ時代も、エリクサーの製造方法は秘匿してたし、そもそも【鑑定書き換え】スキルを、今と同様に隠してたのだ。


 何で、鑑定スキルを持ってるドレスナー伯爵に気付かれなかったかというと、実は、前世の記憶を思い出し、【鑑定書き換え】スキルが生えたと同時に、誰にも気付かれないように、すぐに引き篭ったから。


 実をいうと、あの引き籠もりにも理由があったのだ。

 鑑定持ちのドレスナー伯爵に、自分のスキルを鑑定されない為に。


 そして、レベルが上がり、【鑑定書き換え】スキルが、Lv.20になって、2文字、文字を書き加えられるようになってから、リーナのステータスに、2文字付け加えたのである。


 因み、これが現在のリーナのステータス。


 名前: リーナ

 称号: 元大賢者、引き籠もり娘

 魔法: 水属性魔法

 スキル: 鑑定、鑑定書き換え、隠蔽


 そう。隠蔽スキルを付け加えたのである。

 そして、この隠蔽スキルを使って、自分のスキルを隠したのだ。


 でもって、リーナ以外の鑑定持ちが、リーナを鑑定すると、このように見える。


 名前: リーナ

 称号: 引き籠もり娘

 魔法: 水属性魔法

 スキル: 鑑定


 これで、リーナのチートスキル、【鑑定書き換え】スキルを隠蔽出来たのだ。


「エドモンド様。絶対に、この事は秘密ですよ。そして、クサヤからエリクサーを作ったというのも、絶対に誰にも言ってはいけません!」


 そう、何人もの大賢者と言われた、歴代賢者が、エリクサーの製造を試みたのだが、成功したのは大賢者モッコリーナただ一人だけ。


 しかも、大賢者モッコリーナは、エリクサーを作った実績やら、錬金術の実力で、大賢者まで上り詰めたのだが、ただ一人、モッコリーナは、全く、苦労しないで大賢者まで上り詰めた男なのである。


 因みに、錬金術とは、卑金属から貴金属を精錬しようとする試みが本来の目的なのだが、実際は、その過程によって出来た技術の方が、錬金術と言われようになっていた。


 それに、一石を投じたのが、大賢者モッコリーナだったのだ。

 実際に、卑金属を、金に変える事に成功してしまったのだから。


 まあ、これも、【鑑定書き換え】スキルを使っただけなんだけど。


 その錬金術の本来の目的を成し遂げ、しかも、誰も作る事が不可能と言われていたエリクサーを作るのに成功した事により、モッコリーナは、史上最高の大賢者と呼ばれるようになったのである。

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