第12話 アーモンド侯爵家

 

「頼む! 僕の母を、妹を助けてくれ!」


 突然、ゾンビじゃ無くなって、嬉しい気分になってた筈のエドモンドが、再び、リーナの両手を包み込むように握る。


 ゾンビの時、手を握られた時は、臭過ぎて耐えられなかったが、今は、ドキドキしてしまってる自分が居る。


 アレ……男に手を握られて、ドキドキしてしまうなんて……


 リーナは、とても困惑してしまう。

 大賢者時代、全く、男になど興味が無かったのに。まあ、モッコリーナ時代は、女性恐怖症で、女の子にも近付けなかったのだけど。


 これも全て、エドモンド様の顔が綺麗過ぎるのがいけないのだ。

 確かに、この顔なら、オカマを掘られても良いかもと感じてしまう程の美形だし。


 でもって、話を聞くとこうだ。


 アーモンド侯爵領は、想像以上に、体が腐ってしまう奇病が流行した。


 本来なら、奇病に掛かってしまうと、体が腐って死んで終わりなのだが、お貴族様は、変に金を持ってるから、奇病に掛かっても、どうにか治そうと、回復魔法を掛けまくって、治療しようとするのだ。


 それで出来上がるのが、体が腐ってるのに死なないゾンビが出来上がってしまうのである。


 そして、今回、残念な事に、体が腐る奇病に、エドモンド様と、その妹のシャーロット。それから、母親のマリアが掛かってしまったのだ。


 それで、例に漏れず、死なないように回復魔法を掛け続けたら、ゾンビが3体出来上がったという訳である。


「話は分かりました。ここにエリクサーがたくさんあるので、これで治してさしあげます!」


 リーナは、ドン!と胸を張る。

 意外と、リーナは頼られるのが好きな女の子に育っていたのであった。


 ドレスナー伯爵領を馬車で視察した時、領民におだてられ過ぎて、人助けとは良いものだなと、思ったのが切っ掛けだったかもしれない。


 大賢者モッコリーナ時代は、エリクサーを業者に売って金を受け取ってただけだから、人が喜んでくれてる顔など、一度も見たこと無かったから。


「本当か! エリクサー代は、なんとしても払うからお願いする!」


「エリクサー代など要らないです。エドモンド様とは婚約者同士なんですから。

 ただ、アーモンド家の御屋敷に、私とミミのお部屋を用意してくれるだけで十分でございます。

 それと、エドモンド様の病気が直ったので、暫くは、婚約者のままでいたいというのが本音の気持ちでございます」


 そう、リーナはまだ、結婚などしたくないのだ。毎回、婚約者と強調してたのは、まだ男と肌を触れ合うのに抵抗があるから。

 リーナが大賢者時、男色の気があったなら兎も角。リーナは基本、ウケになるのは抵抗有るのである。どっちかというと、タチがやりたいし。


「分かった。僕も、時間が無くて焦ってただけだ。結婚の時期はリーナに合わせる。

 だから、お願いだ! 妹と母を助けてくれ!」


 エドモンド様は、対峙してた馬車の席から降り、膝まづいてリーナに懇願する。


「分かりましたから、どうか席にお座り下さい。そのようにずっと泣いていらしたら、折角の綺麗なお顔が、真っ赤に腫れてしまわれますよ」


 リーナは、優しく、エドモンドの頭をヨシヨシ撫でてやる。


 なんか、リーナの心に、母性本能まで生まれたようである。

 なんか知らんが、ミミも頭を撫でて欲しそうな顔をしてたので、ついでに撫でてやる。


 ミミは、孤児で、お母さんの顔を知らずに育ったので、リーナの事を自分の母親代わりだと思ってる節もあるし。


 なので、一人でお風呂に入れる癖に、リーナとお風呂に入りたがるのだ。

 だって、絶対に、主人がメイドの頭を洗ってやるって、おかしいでしょ!

 絶対に、リーナをお母さん代わりにしてるのである。絶対に。


 まあ、ミミは、可愛いからいいんだけどね。

 綺麗なミミの白い毛が、汚くなるのも気になるし。


 そんな感じで、エドモンド様とミミを甘やかし、1泊野営して、アーモンド侯爵家の屋敷に到着した。


 小さな時、1度だけ来た事はあったが、屋敷の雰囲気は、滅茶苦茶暗い。

 無理もない。アーモンド侯爵家の跡取り息子と、夫人と、幼い娘がゾンビになってしまったのだ。

 それに、使用人も何人か亡くなってしまってると思われるし。


 正門を抜け、屋敷の前に馬車を乗り付けると、唯一、ゾンビにならなかったアーモンド侯爵と、使用人達が、エドモンドとそれから、多分、リーナじゃなくて、婚約者であるアイナを待ち受けて待っていてくれた。


 そして、馬車の扉が開けられて、ゾンビじゃないエドモンドが登場すると、アーモンド侯爵だけじゃなく、使用人達も絶句したのだった。


 誰しも、驚き過ぎると、一瞬、声が出なくなるものなのだ。


 続けて、リーナも、エドモンド様にエスコートされて、馬車から降りる。


「エドモンド……治ったのか……」


 なんか、アーモンド侯爵が、エドモンド様にブツブツ行っている。

 が、エドモンド様は、リーナをエスコート中。しかも、アーモンド侯爵と目が合ってしまった。

 ここは久しぶりなので挨拶しとこうと、リーナは1歩前に出る。


「お久しぶりです。アーモンド侯爵様。この度、エドモンド様の婚約者として、マリアお義母様と、シャーロット様をお救いに来ました」


 リーナは、スカートの両端をもって、貴族令嬢の礼カテーシーをする。


「あ……ああ……リーナ嬢? アイナちゃんじゃなくて……」


 てっきり、アイナが来ると思ってたであろう、アーモンド侯爵が困惑している。

 それにしても、アイナちゃん?どれだけアイナは、アーモンド侯爵家にくい込んでいたのだろう。


「アイナ嬢は、僕の腐った醜悪な姿を見て、すぐに、リーナに僕を押し付けたのです!

 そして、リーナは、そんな僕を見て、何も言わずに手を差し伸べてくれたのです!

 僕は、ゾンビになって初めて、人の心の醜さを知りました。

 自分が、本当に困ってる時に手を差し伸べてくれる人こそ、真に信頼出来る人間です!

 逆に、逃げて行く人間は、そういう人だったのでしょう。そのようにしか、今後付き合う気などありません!」


 エドモンド様は、何を言ってるのか、どうやら、アイナを貶めて、リーナを絶賛してるようだ。


「アイナ嬢とは、あんなに好きあってたじゃないか……

 妻のマリアとも、あんなに仲良くやってたのに、それなのに、それが演技だったというのか?」


 アーモンド侯爵は、信じられいという顔をしている。

 まあ、それがアイナだし。見た目や、地位だけで人を判断する人間という事を、リーナはよく知ってる。


「ハイ。僕の姿を見て、こんな腐れ男となんか、結婚できるか!と、ハッキリ言ったのです!」


「それは、本当か……」


 アーモンド侯爵は、想像以上に、ショックを受けている。

 多分、アーモンド侯爵の前では、可愛くて優しい娘を演じてたのだろう。


  「それから、私、絶対、臭い男と寝所を共にするなんて嫌ですからね!とも、言ってました!」


 エドモンド様は、想像以上に、アイナに言われた事を根に持ってたようである。


「そして、今回の事で気付いたのですが、どうやら、リーナは、アイナとドレスナー伯爵に、貶められていたようです。

 自分だけでなく、リーナにも臭いとか言ってましたから。全く、臭くなどないのに……」


 どうやら、エドモンド様は、臭い時のリーナと会った事ないから勘違いしてるようだ。


 その当時は、本当に臭かったんだけど、これに関しては黙っておこう。

 だって、自分は、臭かったて言うのって、なんかおかしな感じがするし。

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