第13話 女神リーナ

 

 エドモンド様が、自分が治った経緯をアーモンド侯爵に説明すると、リーナはそのまま、アーモンド侯爵夫人のマリアと、エドモンドの妹のシャーロットが居る部屋に通された。


 2人とも、想像以上に酷い事になっている。


 マリアお義母様など、両腕が削げ落ちて、ウーウー言ってるだけだし。

 シャーロットちゃんも、殆どの肉が削げ落ち生きてるのが奇跡に思える程である。


 これは、すぐにでもエリクサーを振り掛け無ければ、大変な事になる。

 だって、いつ死んでもおかしくない状況なのだから。


 2人とも、エリクサーを口から飲めそうもないので、リーナはエリクサーを豪快にぶっ掛けてやる。


 すると、ミルミルと肉が復活し、マリアお義母様と、シャーロットちゃんが復活したのだった。


「マリアーー!! シャーロット!!」


 アーモンド侯爵が、号泣しながら2人に抱きつく。


「貴方……」


「お父さん!怖かったよーー!!」


 復活して喋れるようになった、マリアお義母様と、シャーロットちゃんも、アーモンド侯爵の広く、大きな胸に顔を押し付けて泣いている。


 エドモンド様も、良かった。良かったと。3人の様子を見て、ウンウン言っている。

 リーナは、ちょっとテンションに付いて行けないけど、取り敢えず、ウンウン言って涙を拭う振りをする。


 なんか、アイナとやってる事が同じ気がするが、仕方が無い。

 マリアお義母様も、シャーロットちゃんも、1回しか会った事が無いので、ここに居る人達と同じように共感出来ないのだ。


 ミミも、全く、共感してないようで、ジーと見てるだけだし。


 まあ、ミミの場合、貧民街育ちで、貧乏過ぎて餓死して死ぬ人間をたくさん見て来たのだろう。

 それに引き換え、この人達は、金に物を言わして延命しただけなのだ。

 そして、1本10億マーブルもするエリクサーで生き延びた訳なので、本人達が嬉しがるのは勝手だが、他人がそれを見て、感動する話ではない。


 それより、ミミは、お金が無くて死んでしまった人を見て、悲しむのだろう。

 この腐って死ぬ奇病は、死んでしまう人達の方が、断然多いのだから。


 リーナは、余りにも冷めた顔をしてる、ミミの頭を撫でてやる。

 そして、ミミの憂いを、少しでも穏和させるのだ。


 ミミの冷めた顔が、元に戻るのを確認したので、すぐにエドモンド様に尋ねてみる。



「この御屋敷で、エドモンド様と、マリアお義母様と、シャーロットちゃん以外で、ゾンビになってしまった方はいないのですか?」


 そう。この人達は、貴族で金持ちだから、ゾンビになったとしても生きていけるのだ。


 しかし、他の者達はそうはいかない。

 下手にゾンビになって生き延びてしまうと、逆に行きづらい生活を送る事となってしまうのだ。あの時、死んでしまっていたほうが良いと思うように。


 だって、ゾンビになってしまったら、どこも雇ってくれなくなるし。

 臭くなってしまって、普通に生活出来なくなってしまうから。


「ああ……一応、2人居るのだが……」


 エドモンド様は、口篭る。

 実を言うと、リーナは分かっていた。

 アーモンド侯爵家の3人以外に、ゾンビがこの屋敷に居る事を。

 だって、階下から貧民街のドブ川のような匂いが、プンプン臭ってきてきていたから。


 ミミも、それに気付いていて、とても冷めた目をしていたのである。


「この屋敷に居るのですね! すぐに案内して下さい!」


 リーナは、エドモンド様を睨みつけ詰寄る。

 物凄く、わざとらしく。


「しかし、その者達には、お金が……」


 この後に及んで、お金の話……

 多分、3本分のエリクサー代は何とか払おうと思ってるらしいが、使用人のお金までは払えないと思ってるのかもしれない。


「お金の心配など、しなくていいです。私は、エドモンド様は婚約者なのですから!」


 リーナは、エドモンド様の目を見ながら言う。

 昔なら、人の目を見て話す事が出来なかったのだが、どうやら、ひとでなしの目は見れるようである。

 エドモンド様は、どうやら、平民の生命と、貴族の生命の値段は違うと思ってるようだし。


「エドモンド様。リーナお嬢様を侮辱しないで下さい!

 リーナお嬢様は、私の女神様なんですから!女神を冒涜するような事は、例え、お貴族様であっても、私は許しませんよ!」


 なんか、ミミが怒っている。

 なんで、リーナが侮辱された事になるか分からないが、リーナが金を催促する女だと思われてる事に、腹を立てたのだろう。


「そうだな……すまない。リーナは、そんな女性じゃなかったな。

 こっちだ! 来てくれ!」


 エドモンド様は、ゾンビになってしまったという2人の使用人が居る、地下牢に案内してくれた。


「何で、こんな所に、幽閉してるんですか!」


 思わず、リーナは叫んでしまう。

 こんなの、人を人と思わぬ愚行だ。

 なんで、お貴族様は、屋敷で寛いで、使用人は地下牢なのか……。

 全然、ゾンビになってたアーモンド家の者達が、可哀想ではなくなってしまう。


「すまない。みんなゾンビ菌に伝染ると思ってるんだ……」


 エドモンド様は、言い訳する。


「そしたら、貴方も同じでしょ!

 貴方など、他の領地まで、ゾンビ菌をばら撒き来たようなものよ!」


 そう、エドモンド様の理論だと、エドモンド様は、体が腐る奇病の病原菌を、わざわざドレスナー伯爵領に運んだ事になるのである。


「すまない……」


 なんか、エドモンド様が反省してる。


「リーナ様、そんな奴、ほかっといて、早く、この2人を助けましょう!」


 マリアお義母様と、シャーロットちゃんを助ける時は無関心だったけど、今回に限っては、ミミは張り切っている。


 どうやら、ミミは弱者の味方らしい。

 なんて、ミミは良い子に育ったのだろう。


 そして、リーナは、先ず、ミミぐらいの小さな女の子の使用人に、エリクサーを飲ませる。


 すると、


「お母さんーー!!」


 肉が戻った、子供の使用人が、隣のゾンビに向かって泣きながら抱きつく。

 どうやら、もう1人のゾンビは、この子のお母さんであるようだ。


 リーナは、続けて、お母さんゾンビにも、エリクサーを飲ませる。


 すると、お母さんゾンビの方も、肉が復活し、親子で抱き合って喜びあったのだった。


「良かった……」


 ミミも、瞳に涙を貯めて感動している。


「本当にありがとうございます!」


「ありがとうございます!」


 2人の親子に、何度も何度も感謝されて、リーナは御満悦。

 まあ、一緒に泣いてあげたら良いのだろうけど、この2人は初めて会った人だし、リーナの人生は、これで2回目。


 大賢者の時は、110歳まで生きてしまったので、そんなに感動する事など無くなってしまっているのだ。

 もっと酷い、自然災害とか経験してるし、こんな事、実際よくある事だしね。


「それでは、私とミミの部屋を、直ぐに手配して下さい。

 それと、お風呂がある部屋を所望します。

 ミミを、しっかり洗わないといけないので!」


 リーナは、しっかりと言うべき事を、エドモンド様に言ったのだった。

 ひとでなしのエドモンド様と一緒の部屋なんて、絶対に有り得ないし。


 もう、アーモンド侯爵家の人達に、相当な恩は売ったので、思う存分、引き籠もりさせてくれるだろう。


 リーナに文句は言う事が出来る者など、もう、この家には居ないのだから。

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