第2話 リーナ、命を繋ぐ水を作り出す

 

 極度の極貧により、お付のメイドも解雇されて、食事も出てこなくなったリーナは、ついに決断したのだ。


 賢者の知識を使って、お金を稼ごうと。そして、そのお金でご飯を出して貰おうと。


 しかしながら、知識無双しようとしても、引きこもりのリーナには何もない。


 基本は、ドレスナー家の書斎を占拠して自分の部屋として使っている。


 ハッキリ言って、書斎にあるものは、本だけ。


 知識を使って、ドレスナー家に新たな産業を作ろうにも、そもそも人見知り過ぎて、誰とも話す事ができないし、少しだけ、話す事が出来たお付のメイドも、辞めてしまった後だし、誰ともマトモに意思疎通出来ない状態なのだ。


「どうしよう……」


 正直言うと、大賢者モッコリーナの知識を使えば、どれだけでもお金を稼ぐ手段は有るのだが、如何せん、リーナにはそれを使うツテも道具や素材さえないのである。


 唯一出来る事と言えば、水魔法で水を出す事だけ。

 実を言うと、リーナは、大賢者と言われては居たが、使える魔法は、水を出す魔法だけだったりする。


 では、何故、そんなリーナが大賢者になれかと言うと、実は、地味だけど、トンデモないスキルを持ってたから。


 そのスキルと言うのは、【鑑定】スキルと、【鑑定書き換え】スキルという、2つのスキル。


 まあ、【鑑定】スキルは、ありふれたスキルなのだが、【鑑定書き換え】スキルというのが、トンデモないスキルだったのだ。


【鑑定】スキルで調べた内容の、文字を消したり、付け加えたり、書き換えたり出来るスキル。

 めちゃくちゃスゴいスキルなのだが、レベルが上がらないと、それ程凄くは無かったりする。


 Lv.1で、出来るのは【鑑定】に書かれた文字を、1文字だけ消せる事が出来るだけ。


 例えば、銀スプーンを鑑定して、ステータス画面を出してみる。


 名前: 銀スプーン


 このように、【鑑定】もLv.1なら、名前ぐらいしか表示できないのだ。


 そして、【鑑定書き換え】Lv.1を使えば、この【鑑定】で表示された文字を、1文字だけ消せてしまえる。


 試しにやってみると、


 名前: 銀スプーン→名前: スプーン


 このように、銀スプーンから、スプーンに出来てしまう。

 これが、実際の物に反映されて、本当に、銀スプーンから、普通のスプーンになってしまうのだ。


「使えねー!」


 というのは、冗談で、レベルを上げれば、消せる文字数も増えてくるし、文字を書き加えたりも出来るようになってくる。


 そして、現在のリーナの【鑑定書き換え】スキルは、Lv.30。


 消せる文字は、3文字で、書き加えれる文字も3文字。


 ん?少な過ぎる?

 アホか!

 3文字でも多いんだよ!


 例えば、さっきの銀スプーン。


 名前: 銀スプーンから、まず、1文字消して、名前: スプーンにする。


 そして、1文字、金の文字を付け加えると、なんと、


 名前: 金スプーン


 と、このように銀スプーンから、金スプーンに変える事が出来てしまうのである。


 これぞ、本当の錬金術!!

 このスキルによって、前世のリーナは、巨万の富を得て大賢者に成り上がる事ができたのである。


 金さえあれば、どれだけ引き籠もりするのも自由だったし、グーダラ出来たのだ。


 でもって、今回、リーナになっても、上手く、【鑑定】スキルと、【鑑定書き換え】スキルを取得してたので、せっせと、図書館に閉じこもって、本とかを鑑定しまくって、鑑定書き換えスキルのレベルを上げていたのである。


 因みに、【鑑定書き換え】レベルを上げる方法は、【鑑定】レベルを上げる事。

【鑑定】Lv.100にして、カンストさせると、やっとこさ【鑑定書き換え】レベルが、Lv.30になる程度。


 実際、今の状態で、前世で大賢者をやってた時と、同じレベルだったりする。


 そんな訳で、金を稼ぐ為に、何かを鑑定して、文字を消したり、書き加えたりしたら良いだけなのだが、リーナは悩んでしまう。


 こんな物凄すぎるスキルを持って居ると知れたら、アイナや両親に金をたかられると。


 だって、リーナは、実の娘だと言うのに、食事も与えられずに、今、現在、餓死してしまいそうになってるのだ。


 そして、現在でも、アホな両親達は、何も金を生み出さない、アイナをチヤホヤして甘やかしてるのだ。


 アイナが、アーモンド侯爵のエドモンド様と結婚さえしてくれれば、何とかドレスナー伯爵家は持ち直せると、本気で信じて。


 その前に、実の娘に、食事を与えないで餓死させてたら、ドレスナー伯爵家は、破滅してしまう事が、本当に分からないのか?


 今でさえ、何十人も居た使用人を首にしたり、給料未納で恨まれているというのに、リーナが餓死して死んでしまったとしたら、本当に隠し通せると思ってるのか?


 速攻で、恨みを持ってる使用人達にリークされて、ドレスナー伯爵家は取り潰しになるのは目に見えている。


 実際、今のリーナは、餓死する寸前だし。


 そんな、実の娘を、餓死させても平気な親にも、その原因のアイナにも、リーナのスゴすぎる【鑑定書き換え】スキルを教える訳にはいかないのだ。


 リーナは、考えあぐねた結果、水魔法で出した水を、ポーション製造に使う、魔聖水を作り出す事を考えた。


 全ての道具を金に変えるのは簡単だが、それでは直接的過ぎて、リーナのスキルがバレてしまう。


 それなら、元々、ドレスナー伯爵家がやってた家業を復活させようと。

 二代前までのドレスナー伯爵家は、魔聖水製造を、そのドレスナー侯爵領の財源としてたのである。


 二代前のドレスナー伯爵の水魔法で出される水は、良質の魔聖水だったと言われていたのだ。


 取り敢えず、リーナが先祖返りして、魔聖水が出せるようになるのは、有り得る話なのである。


 取り敢えず、魔法でコップの中に水を出して、鑑定する。


 名前: 水


 そこに、魔聖水(上)と、書き換える。

 こんな感じ。


 名前: 魔聖水(上)


 すると、ただの水だったコップの水が、光り輝く、 魔聖水(上)に早変わり。


 因みに、()は、1文字とカウントされない。


 出来た! コレで、餓死せず、なんとか生き抜く事が出来る!


 リーナは安堵するのだが、この後、更なる大問題が発生するとは、腹ペコ過ぎて、頭に糖分が足りない今のリーナに、気付けという方が酷な話だった。

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