第23話 炊き出し聖女

 

「貴様は、本当に、支度金を貰えると思ってるのか?

 アイナ。貴様が、ドレスナー伯爵家でしでかした、数々のリーナ様に働いた無礼な行為は、全て調査済みだ!

 アーモンド侯爵家の大恩人であるリーナ様に、酷い仕打ちをしてた、ドレスナー伯爵家に支払う金など、一銭もないわ!」


 アーモンド侯爵は、溢れんばかりの殺気を漲らし、アイナに言い放つ。


「ヒィーー!!」


 アイナは、アーモンド侯爵の殺気に当てられて、その場にヘタリ込み、失禁してしまう。


「アイナが、オシッコ漏らしちゃったよ~

 私でも、もうお漏らさないのに!」


 シャーロットちゃんが、悪気なく追い打ちをかける。


「あ~臭い臭い。小便臭い女を、早くこの家から摘みだしてくれないか?」


 エドモンド様が、鼻を摘みながら、使用人に吐き捨てるように命令する。

 どれだけ臭いと言われた事を根に持ってるのだろう。


 そして、アイナは、アーモンド侯爵が発せられた殺気と、人前でオシッコを漏らしてしまったショックで放心状態。


 そのまま、アーモンド侯爵の使用人3人がかりで、ドレスナー伯爵家の馬車まで、連れていかれてしまった。


「暫く、この書斎は使えないな……オシッコ臭いから、絨毯の張り替えを頼むぞ」


 アーモンド侯爵は、使用人に支持を出す。


 そして、


「リーナちゃん。本当に、今迄、素っ気ない態度で、御免なさいね。

 私、どうしても、アイナちゃん……いえ

 アイナが、エドモンドに酷い事言ったと信じられなくて。

 でも、今日、実際にアイナを見て、私達が今まで騙されてたと気付いたの。

 これからは、本当の母親だと思って甘えてちょうだいね! リーナちゃん!」


 アーモンド侯爵夫人が、リーナを引き寄せ、頭を撫で撫でする。

 というか、元ジジイのリーナにとって、アーモンド夫人ぐらいの中年の女が、一番苦手だったりする。


「ちょっと、リーナちゃん! 大丈夫!? 鼻血出てるわよ!」


 こうして、リーナは、最後の砦、アーモンド侯爵夫人を攻略して、完全に、アーモンド侯爵家を掌握したのだった。


 そして、こうなってしまったら、今迄、大人しかったミミが動き出す。


 ミミの至上目的は、ミミの恩人で女神様であるリーナが、世界を治める事だったりするのだ。


 実際、ドレスナー伯爵家に居た時など、領民を掌握して、ドレスナー伯爵家を乗っ取ろうとしてたくらいだし。


 なんか知らんが、ミミが指をポキポキ鳴らして戦闘態勢。


 書庫部屋に戻ると、また、ミミに、金のスプーンを量産させられる。


「今回もやりますよ!人気取りのアーモンド侯爵領巡り!」


 ヤル気満々のミミが、宣言する。


 アーモンド侯爵領は、ドレスナー伯爵家と違って、体が腐る奇病の影響をモロに受けているのだ。

 男手が、死んでしまった家は、苦境に立ち、お母さんが死んでしまった家では、ご飯を作れる人が居なくなってしまったのである。


 話によると、孤児も増えたとか。


「これは、炊き出しですね!」


 ミミは、そう言うとリーナの部屋を出て行き、シチューの入った鍋。それから、パンがたくさん入った籠。を、厨房の料理人に頼んで、リーナの部屋に持ってきたのだった。


「リーナお嬢様、これを詳しめに鑑定して下さい!」


 リーナの【鑑定書き換え】スキルで、天才になったミミが、指示してくる。


「どんな感じで?」


「名前だけを、詳し目に、鑑定するのが理想的ですね!」


 ミミに指示されて、リーナは、言われた通りに鑑定する。


 鑑定Lv.100ともなると、都合が良い部分だけ鑑定出来てしまうのである。


 でもって、


『熱々のクリームシチューが入ってる鍋』

『出来たてのパンが入ってる籠』


 多分、これが、ミミが求める鑑定結果。


「それでは、【鑑定書き換え】スキルで、『入って』を消して、代わりに『湧き出』に替えて下さい!」


 うん。分かってた。

 でもって、こうなる。


『熱々のクリームシチューが湧き出る鍋』

『出来たてのパンが湧き出る籠』


 これで、いつでも熱々のクリームシチューが湧き出る鍋と、出来たてのパンが湧き出る籠が出来あがった。


 これで、無限炊き出しが可能になったのだ。


 どれだけ人が押し寄せても、決して無くならない炊き出し。

 これを作った時点で、リーナのミッションは、ほぼ完了なのである。


 早速、サラとミントも連れて、アーモンド侯爵領各地で炊き出しを始めたのだった。


 馬車をキッチンカーみたいな、炊き出し馬車に改造して、これでもかと、シチューとパンを配りまくったのである。


 日持ちするパンなどは、各地の教会にたらふく寄付するのも忘れない。

 リーナが行った後に、餓死者など出たら目も当てられないし。


 リーナは、アーモンド侯爵領をグルグル何回も何回も周り続け、無理やり、領民にリーナの顔を覚えさせたのであった。


 アーモンド侯爵長男、エドモンドの婚約者、聖女リーナとしてね!


 まあ、リーナはただニッコリ笑って、パンとシチューを配ってただけだが、ミミとサラとミントが、聖女様の炊き出しです!と、これでもかと宣伝したので、嫌でも炊き出しに来た人は、サブリミナル効果で、『聖女リーナ』と、覚えてしまっただけなんだけど。

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