第6話 金のフライパン
次の日、リーナは馬車に乗せられて、ドレスナー伯爵領の視察をやらされている。
もう、これは引き籠もりの、親に見捨てられてる領主の子供の仕事ではない。
馬車も、どう考えても、ドレスナー伯爵家の馬車じゃないし、きっと、ミミがどこかから調達してきた馬車で違いないのである。
ほんの1ヶ月前まで、貧民街の孤児だったのに、ミミのステータスに、【鑑定書き換え】スキルで、【超記憶】の3文字を書き加えただけで、本当に凄い変わりようである。
次々に新たな知識を記憶し、リーナをドレスナー伯爵家の領主にしようと画策してるのだ。
最初、ミミが何をしようとしてるのか分からなかったけど、流石に、ここまでされたら、ミミが何をしたいか分かるよね。
リーナの事を、自分を救ってくれた聖人君子か、聖女かなんかと、本当に勘違いしてるし。
そして、そんな聖女のようなリーナこそ、このダメダメ過ぎるドレスナー伯爵領を治めるべき領主だと本気に思ってるのだ。
実際、ただの女性恐怖症の引き籠もりなのに……物凄い、慕われようである。
「リーナお嬢様。さあ、この荷馬車の屋根に立ち、この袋詰めしたお菓子と、袋に入れたパン、それから丸められた紙を、ジャンジャン投げて下さい」
本当に、何をやらされてるのか分からない。
何で、女性恐怖症で引き籠もりのリーナは、こんな大勢の人の前で立たなければならないのだろう。
唯一の救いは、荷馬車の上に立ってるので、誰も近付いて来れない所。それから、司会は全て、ミミがやってくれるので、何も喋らなくても良い所。
もしかしたら、これも、ミミが、女性恐怖症で人見知りの自分の為にやってくれてるリハビリなのかもしれない。
確かに、リーナが投げる袋詰めのお菓子や、パン。そして、何か分からない丸めた紙を必死に拾う人を見てたら、餌に群がる池の鯉に見えてきたし。
人間だと思わなければ、リーナも、無駄に意識しなくても済む話なのである。
でもって、全ての餌?をバラ蒔いた後、丸めた紙を持った人々が、まだ、馬車の周りにたむろしてる。
しかも、みんなニコニコして、本当に怖過ぎる。
誰もが、リーナに向かって作り笑いしてくるし。
「それでは、当たりを引いた人達に、商品の受け渡しをします!」
司会のミミが、なんかおかしな事を言ってる。
当たりって何?
「金のスプーンのクジをゲットした人!」
「「「ハイ!ハイ!ハイ!」」」
なんか、目が血走った人達が必死に手を上げてる。これは確か、つい最近、金にしてくれとミミに頼まれたスプーン。
きっと、お金が必要なんだなと思って、言われるままに、ただのスプーンのステータスを書き換えて、金のスプーンにしたのだが、これが目的だったのか。
というか、これまで結構、金のスプーン作ったけど、一体、幾らぐらいするのだろう。
まあ、幾らでも作れるから、値段とか全く気にしないんだけど。
「それでは1等の金のフライパン!」
ミミが勢い良く、金のフライパンを右手に持ち、天に掲げると、
「ハイハイ! 私が当たったわ!」
と、当たりの券を持ったオバサンが、人を掻き分け、大声を出しながら、ミミの元までやってくる。
ウン。これも作らされたな……。
それにしても、一体、金のフライパン幾らするんだろう。
熱伝導率は、物凄く良さそうだけど、これで料理なんて出来ないよね。
まあ、料理上手そうなオバサンだから、本当に料理に使っちゃうかもしれないけど。
そんな感じの荷馬車の旅を、まる3日間やり続け、配った金のフライパンは、合計30個。
どこの街でも、物凄く盛り上がったし。
熱狂的な人間を見て、ちょっとだけ人間に慣れて来た気もする。
やはり、金が掛かってると、人間の本性が出るし、あの物凄い熱狂を経験したら、普通の精神状態の人間を相手にする事など、少しだけ簡単に思えてきたのだった。
「リーナお嬢様、これで、養女のアイナがアーモンド侯爵家に嫁に行った後のドレスナー伯爵家は安泰ですね!
リーナお嬢様の人気、物凄いですよ!」
猫耳のミミが、満足そうに話し掛けてくる。
確かに、散財家のアイナが居なくなれば、ドレスナー伯爵家の経済状況は上向くだろう。
だけど、リーナの人気というより、金のフライパンの人気のような気もするけど。
まあ、リーナが【鑑定書き換え】スキルを持ってる時点で、そもそも金の心配などする必要ないのだけどね。
そんな風に軽く考えてた、1週間前の自分を殴ってやりたい。
その事件は、なんの前触れもなく起こったのだ。
そう。アーモンド侯爵家から、元リーナの婚約者で、現在、養女のアイナの婚約者であるエドモンドが、ふらりとドレスナー伯爵家にやって来たのだ。
数ヶ月前に起こった、体が腐る奇病の後遺症を伴って。
所謂、ゾンビになって、ドレスナー領にやって来たのだ。
ーーー
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