概要
ピアノへの夢と現実の暮らしの間で揺れる移民二世の少年と、彼を取り巻く幼なじみ、家族、先生との関係を描くささやかな青春ドラマ。
全5話。
<区立音楽院>
公立の音楽教育機関。パリ市にはおよそ区ごとにひとつずつ音楽院があり、市民であれば小学2年生から応募できる。1年目はソルフェージュと呼ばれる基礎訓練、その後専門の楽器を選び、先生について個人指導を受ける。
期間は第1課程(おもに小学生)から第3課程(おもに高校生)まで。
月謝は保護者の納税額に応じて段階
おすすめレビュー
新着おすすめレビュー
- ★★★ Excellent!!!あなたのとなりのカリム
愛される小説、というのは読者との共感性が高い。
にも関わらず、この柊圭介という作家はいつも、ごく一般的な日本人が共感するのにはちょっとハードルが高いところを舞台に選ぶ。それは19世紀のフランスだったり、帰国子女だったり、同性愛だったり。
それでもこの作家がこれだけの人気を得るのには理由がある。
テーマに読者が共感するからだ。
今回、柊氏が選んだ主人公はフランスの移民二世のカリム。この設定だけを見せられて、カリムに共感を覚える日本人が一体何人いるだろうか。
それほど多くはないだろう。
けれど、一度この小説を読み始めると、カリムの抱える悩みや彼を取り巻く人々が人種や国境…続きを読む - ★★★ Excellent!!!恵まれない環境であっても、光の差す方に歩いていける。そう、信じたい
パリに住むアラブ系移民二世の少年、カリムが主人公です。
彼にはピアノの才能があり、音楽院に通うことに両親が深い理解を示しています。
しかし世界情勢が不安定ということもあり、アラブ系の人々の肩身は狭い。善良な人であっても、民族の名前は生涯ついてまわる。一部の過激な人々の行為によって色眼鏡で見られる。
その中で、芸術分野で成功するというのは非常に難しいものがあります。
カリムは将来に対し、卑屈になります。
そんなカリムに、友人のアントワーヌが二重奏の共演を持ちかけます。
アントワーヌはフランス人で、音楽一家。恵まれた環境にあります。
でも、思うのです。
恵まれない環境の中で才能を伸ばせるカリムっ…続きを読む - ★★★ Excellent!!!光を。
人の世は、不合理である。スタートラインも違えばルールも違う。当然、持っている武器だってぜんぜん違う。自己の当たり前は、他者の当たり前ではない。みるべき夢だって、色彩から異なろう。
だが。我々は皆、与えられた。
与えられたことを知ったとき。ひとは、自らもまた与えることができると知る。
自らに光が宿ることを知ったとき。光に向かって歩けることを知るだろう。
この美しい物語は、不合理な世界にあっても響き渡るシンフォニーがあることを伝えてくれる。
薄汚れた町の上にも、満点の星空のあることを思い出させてくれる。
――光を、求めよ――
そう語らってくれている。
最高の物語ですっ!!超絶オスス…続きを読む - ★★★ Excellent!!!舞台の上で浴びる喝采が、彼をただ一人の音楽家にする
本当に素晴らしい作品でした。
まず驚かされるのは、我々日本人にとって馴染みの薄い「人種間格差」「移民問題」のあるフランス社会の空気感がリアルに伝わってくる筆致です。
アラブ移民2世でありながらピアニストを目指す、主人公カリムの抱えた儘ならなさに、胸を締め付けられました。
そんな折、フランス人の友人から頼まれた伴奏者としての役目。
はじめは彼に対して引け目を感じていたカリムですが、背中を押してくれたのは意外な人たちで——
クライマックスの演奏のシーンは圧巻で、思わず涙が溢れました。
冒頭とラストでどちらもエッフェル塔を眺めるシーンが出てくるのですが、その景色の感じ方の違いを、ぜひ多くの人…続きを読む