恵まれない環境であっても、光の差す方に歩いていける。そう、信じたい

パリに住むアラブ系移民二世の少年、カリムが主人公です。
彼にはピアノの才能があり、音楽院に通うことに両親が深い理解を示しています。
しかし世界情勢が不安定ということもあり、アラブ系の人々の肩身は狭い。善良な人であっても、民族の名前は生涯ついてまわる。一部の過激な人々の行為によって色眼鏡で見られる。
その中で、芸術分野で成功するというのは非常に難しいものがあります。
カリムは将来に対し、卑屈になります。
そんなカリムに、友人のアントワーヌが二重奏の共演を持ちかけます。
アントワーヌはフランス人で、音楽一家。恵まれた環境にあります。
でも、思うのです。
恵まれない環境の中で才能を伸ばせるカリムってすごいんじゃないかと。彼に足りないのはチャンスと自信。
たとえ恵まれた環境、恵まれた才能があっても、人と比較すれば、多くの人が卑屈を感じるもの。
そうしたときに、闇落ちせず、光の差すほうに歩いていけるかは自分次第。
カリムが光の差す方へいけるのかは、ぜひ読んで確かめてください。

音楽をベースにして移民感情を丁寧に紡いだこの作品は、短編であっても読み応え十分。
そんなの気にしなくていいよ、なんて気軽に言えない複雑な問題を絡めながらも、読後に感動をもたらすのは、作者の温かい眼差しによるものでしょう。
文章も洗練されていて、心が洗われます。

ソロではなく、伴奏者。
違った楽器だからこそ奥行きのある音色が成立するように、異なる人種だからこそ奏でられる美しいハーモニーが世界中に響き渡りますように。

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