車椅子生活を余儀なくされた元自転車ロード選手の唯。そして野生動物の刻印のような顔のあざを持って生まれた少年、風斗。
彼らは運命の絆でつながり、自転車レースという目標に向かって一緒に進んでいきます。その過程は過酷で厳しいものでありながら、彼らは互いに力を与え合い、励まし、着実に前へと進んでいきます。
そんな二人を見守る家族もまた、信じることを諦めず、しっかりと彼らを支えています。まさに Faithの名前にふさわしい、素晴らしいチームです。
実在する自転車レースでの迫真の描写に加え、そこで風を切る者の極限の精神状態がリアルな筆致で描かれます。そしてタイトルどおり、走ること=生きることへの純粋な喜びと信念が伝わってきます。
自分を信じ、肉体と精神の高みへと昇りつめる感覚。この境地はきっと身をもって知る人にしか書けない。そう感じました。そして読者としてそれを体験できるのは幸せなことだと思いました。
壮絶で崇高な世界を見せられたあとの言葉にしがたい気持ちが、読み終わっても胸の中でずっと残ります。
唯と風斗。風斗が生まれた時から、二人はまるで運命に導かれるように魂が惹かれ合い、共に走る、かけがえのない仲間でした。
交通事故で致命的な傷を負い、一度は自転車を断念した唯は、憧れの選手であった史也の息子・風斗の誕生をきっかけに、再び自転車の道を志すようになります。
思うように動かない体を押して、苦難の道を進んでいく唯。でも、風斗がそばにいる。
風斗は生まれた時から、まるで野生動物からある種の力を与えられたような、不思議な少年。
また、風斗の母・凛は、唯が思いを寄せていた看護師。
「家族」であり、「自転車仲間」である四人のチームの繋がりは、何よりも強く、美しい。
彼らの思いは、魂は、どこまで走り、どこまで空を超えてゆくのか……。
気高い命の愛を、教えてくれるような物語です。
崇高さに、心が洗われていくのを感じます。
風と共に生きる魂の輝きを、ぜひ、この作品で体験してみてください。