2023/12/05

「いきなり残って貰ってすみません」

「いいよ。でも珍しいね。としくんから相談したいことがあるなんて」


 セカンドダイス閉店して一通り片づけを終えた後の会話だ。俊彰がセカンドダイスの入口のカギを閉めて智也先輩の近くに戻ってきたときに話を切り出した。


「いきなりなんですが。智也先輩ってどうやって千尋さんと付き合てたんですか?」

「な、なにを突然。本当にいきなりだな」


 普段は冷静な智也先輩が途端に慌てだした。それがちょっとだけおかしくて俊彰は笑ってしまう。


「智也先輩もこういう話で焦ったりするんですね」

「なんだよ。そっちから話を振っておいてその態度は。それにどんな質問だよ。まあ、でもとしくんの事だから春ちゃんのことでしょ、きっと」

「な、なんでそれを」


 こんどは俊彰が焦る番だ。流石に不意打ちされたので驚く。


「そんなのみんな分かってるよ。見てれば分かるんだから。まあ、でも聞かれるってことはやっぱりまだ春ちゃんと付き合ってないんだ」


 何かに納得したかのような反応。智也先輩の中でどういう話になっているのか気になる。きっと千尋さんからも色々聞いているはずなのに。どうしてそんな反応になるのだ。


「あの。一体。智也先輩の中で春さんと僕ってどんな風に見えて……」

「えっと。早く、くっつけばいいのに、どっちもなんだか踏み切らないでじれったい感じ? 高校生でもここまで初々しさは……あっ。えっとまあ。だから、今日こうやってそれっぽい話が聞けてようやくかって感じだよ」

「あっ……なんかショックですね。なんでかは分からないですけど。……その春さんは僕の事、どう思ってるんでしょう」


 そこまで理解されているのであれば開き直ってしまったほうがいいような気がして思い切って聞いてしまった。智也先輩はちょっとだけ困った顔をする。


「それが正直分からないだよね。千尋も何も聞いてないみたいだし。でも、ふたりがいい感じに見えるのは確かだよ。って言うささっきもいったけどさっさとくっつけばいいのにって思ってる」

「そう……なんですね。僕はどうすればいいのでしょうか」

「どうすればいいって。どうにかなりたいから聞いたんでしょ。だったらとしくんとしてはもう決まってるんだと思うよ。あとはやるだけ。春ちゃんの気持ちもとしくんに向いている様にしか見えないから。きっと大丈夫。まあ、春ちゃんの事だから、多分としか言えないのが申し訳ないのだけれど」


 いまいち全力で背中を押してくれるわけではない智也先輩に頼りなさを覚えつつも心は軽くなっていた。


「分かりました。告白します。それで智也先輩。千尋さんのとはどうやって……?」

「あっ。えっと話さないとダメか?」

「ダメです。参考にしますので。ぜひ聞かせてください」


 今夜はすぐに帰すつもりはない。なんならボドゲで遊びながらでもいい。


「しかしまあ。ふたりしてお客さんに手を出すとは。この店は大丈夫なのかねぇ」


 急に割り込んできた店長に智也先輩とふたり一瞬固まった後、互いの方を向いて確認した後。声をそろえて店長に向かって言い放った。


「「店長が炊きつけたんでしょうが!」」

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