2023/12/04

  告白――ある辞書によれば言うはずじゃなかったことを相手に打ち明けることを指すらしい。


 店長の言葉が忘れられず帰宅後、自室で辞書を引いてしまった。


 ペラペラと辞書をなんとなくめくりながら物思いに耽る。


 辞書の言葉を借りれば俊彰にとっての春への告白は、一年間秘めていた想いを正直に伝えることになる。秘めていた想い。そんな大層なものではない。


 去年のクリスマスに一緒にボドゲ会を開催した。相手は小学生とかの子どもたちだ。ちょっとしたトラブルもあったのだけれど、春の影響も大きく乗り切ることが出来た。そしてそのあと、ふたりっきりでいろんな話もした。ボードゲームで遊んだりもした。それがクリスマス当時の話だ。


 そこから何度も会っているのに春との距離は縮まりもしなければ離れもしない。


 つまりずっと進展していないってことだ。


 なんでなのだろうか。


 クリスマスに行ったボドゲ会は好評で毎月のように開催し続けている。その度に春と打ち合わせや準備をするために顔を合わせている。その流れでふたりで食事に行ったことだってある。周りから見ればデートに見えただろうけれど。春からはそんな気配はまったく感じれなかった。


 もしかしたら俊彰のことを弟かなにかとでも思っているのかもしれない。


 ボドゲ会は今月もある。クリスマスは平日なので流石に前日のイヴに行うのだけれど、その準備も着々と進んでいる。ふと。ボドゲのことが気になり始めた。まだ、遊ぶボードゲームを決めていないのだ。一年もやっていると、どんなゲームにしていいのか悩み始めたりもする。なんならゲームマーケットで探すのもいいかもしれない。

 

 違う。そうじゃない。考えなきゃいけないのは春への告白の事だ。


 そもそもするのか。しないのか。それを考えなければならないのだ。


 俊彰は春が好きだ。それは間違いない。でも付き合いたいとか言ってもよく分からない。一緒に居て楽しいし、今も十分一緒に居る気もする。それ以上の関係を望む必要があるのだろうか。それでもリスクを冒してまで告白する必要があるのだろうか。


 世の中のカップルたちはどうやってそう言う関係になっていくのだろう。そんな話題に触れてこなかった訳じゃない。でも自分とは程遠いものだったし、思い返しても参考にならない話ばかりだった気がする。その場のノリとか、押し切れとか。よく考えてみれば付き合うってことをしていた連中はみんなそんな感じのやつらだった。


 参考になると言えば智也先輩くらいか。よく考えなくても智也先輩に聞くのが最適な気がしてくる。


 明日のバイトのシフトはどうだったけと慌てて確認するためにスマホを取り出した。

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