2023/12/03

「と言う事なんですが。お休みをいただけますでしょうか」


 店長にその話が出来たのははるに誘いを受けた次の日だ。なんてことはない、一晩中悩み続けた結果だ。悩んでいても仕方がない。別にほかのみなさんとも仲が悪いわけでもないし、どちらかと言えば仲が良いと思っている。


 智也先輩も来るんだよな? 智也先輩はセカンドダイスで一緒に働く仲間だ。大学は違うけれど、セカンドダイスで顔を合わすことも多いのですっかり一番の遊び相手。ほとんどがボードゲームで遊ぶことになる。


 そして智也先輩は春の友達である千尋さんと付き合っている。


 春の友達で誘われたときに名前が出た美鶴さん。そこに加えて美穂さん、千尋さんがいつもの四人。であれば一緒についてくるよな?


「いいんだけどね。ちょっとだけ考えてもいい?」


 店長の事だから気前よくオーケーを貰えると思っていた。


「人足りませんか?」 代わりの人は用意したのだから、そんなはずはないのだけれど、そんな態度を取られたら不安になる。


「人は足りてるけど、ちょっと心配なメンツになっちゃうなぁ。経験が短い人たちばかり。智也くんやとしくん位、ちゃんとしてればいいんだけどさぁ」


 買い被りすぎだ。智也先輩はともかく自分はまだまだ。お客さんの質問に戸惑うことも多い。


「あっ。そうか、ふたりも行くんだからおつかい頼んじゃえばいいよね? 初日の買い物はリストアップしておくから買ってきてよ。気になったのがあればそれもお店のものってことなら買ってきていいからさ」


 悩んでいた店長が急に閃いたみたいな顔をして、次は自慢気な表情。いわゆるドヤ顔ってやつだ。


「いいんですか? 店長は行かなくて?」

「いいの。いいの。その代わり二日目に行くからさ。その日はバイト入れるんでしょ?」


 当然なのですぐさま頷く。


「じゃあ、問題なし。いいねぇ。楽しんでおいでよ。ゲームマーケット。初めてじゃないんでしょ? 回り方分かるよね? 気になるのあったら前もって予約とかできるならしておきな」

「ええ。行ったことあります。買えないのはなんだか悔しいですもんね。チェックしておきます」


 満足そうにうんうんと頷く店長が急に何かを思い出したように身を乗り出してきた。


「ねえ。そういえばとしくんて春ちゃんと付き合い始めたの?」

「あ、え? いったいなんの話でしょうか」

「とぼけないでよ。去年のクリスマスあんないい感じだったのに、結局仲良しのままって感じだったし。今回の件もみんなと言いつつ、それぞれ彼氏連れてくるみたいな流れでしょ? だから春ちゃんはとしくんとくっついたのかなぁって」

「ち、違いますよ。付き合えてません」


 あまりに店長がぐいぐい来るもんだから強めに否定してしまう。


「付き合えてませんって。としくんとしては付き合いたいわけだ。じゃあ、もう告白しちゃおう。このゲームマーケットで」


 店長が盛り上がってる理由はまったく分からなかったけれど。確かにチャンスかもしれない。そう思った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る