2023/12/02

「ねえ。一緒に行こうよ。来週のゲームマーケット」


 セカンドダイス店内は今日も賑わっている。それなのに河野春こうのはるは定位置だと言わんばかりにカウンター席でこちらの仕事ぶりを観察してくる。


 春の提案はいつだって急に来る。今回もそうだ。昨日、変なことを聞いてしまってちょっと意識していたところにそんな誘い。願ってもないのだけれど、俊彰としあきはちょっとだけ考えるふりをする。


 春の言うゲームマーケットとはアナログゲームのイベントの事だ。年に二回行われ、時期としては春と秋に開催される。会場の都合で秋と言いつつ今年は十二月にズレこんだりなんかもした。そして国際展示場で二日間にわたって行われるそのイベントは主にボードゲームを遊んだり買ったりすることが出来る。販売してるのはメーカーだったり個人だったり。信じられなくらいの人が集まる。人気のボードゲームなんかは列を成すことだってある。


 それにボードゲームだけじゃない。テーブルトークアールピージーやシミュレーションゲーム、最近だとマーダーミステリーが人気だ。


 とにかく一日中遊べる場所なのは間違いなく、セカンドダイスは決して無関係ではない。そのイベントでしか手に入らないボードゲームなかもあるので、面白そうなものは店長が仕入れてくる。


 そんなんだから、店番をしなきゃならない日なのだけれど、そんなのは変わって貰えばいい。幸いなことにあてはある。


「美鶴たちも一緒なんだー。久しぶりにみんなでボドゲで楽しもうよ」


 その言葉を聞いて途端にテンションが下がるのが自分でも分かって。それが心地悪くて。返答に詰まってしまった。


「みなさん一緒なんですね」


 当然だろう。よくよく考えたらそうでしかない。でも、期待してしまった。去年はふたりきりだったじゃないか。そんな考えすら浮かぶ。


「そうだよ? せっかくの大型イベントだし、みんなで楽しまなくちゃね」


 それはそうなのだけれど。期待してしまった分の落差が大きすぎる。


「……ちょっと。持ち帰らせて貰ってもいいですか? 店長に相談もしなきゃいけないので」


 持ち帰ってどうするつもりだ。でも、そう答えてしまった。


 春は途端に辺りをキョロキョロし始める。その店長を探しているのだろう。さっきまでいたのだからだ分からないでもない。


「店長なら出かけました。なんか商店街で行うクリスマス会の会合って」

「ふーん。私からも頼んでおくからさ。そのへんご検討ください!」


 なんだそのフレーズ。なのに、なんでそんな嬉しそうなんだ。でも、そんな春だからずっと気になってしまうのだ。


 要検討。それはこの事案は確かに間違いなくそれにあたる。


 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る