2023/12/21

「やったぁ! 優太くんできたよ!」


 貴子の声をきっかけに美鶴、琥珀とともにハイタッチをしながら喜んだ。もちろん優太も一緒にだ。


 ナインタイルの完成までには耐久力が必要だった。優太がタイルをひっくり返したり、移動させたりするのをじっと見ながらも手は出せない。下手なアドバイスは優太のやる気をそぐ結果につながるだろうし、集中しているのに飽きてさせてしまうキッカケにもなりかねないと思った。


 でも、楽しそう。そう思いながら三人で見守っていたように思う。あーでもない、こーでもないと必死に頭を悩ませる姿はかわいいとすら思った。こんな感情初めてだなと思ってからふと、気が付いたのだ。自分より年下の子がボードゲームで遊んでいるのを見るのが初めてなんだ。


 そりゃ新鮮なはずだ。


「よかったね貴子さん」


 そう声をかけてくれたのは美鶴だ。こんな時ですらこちらを気にしてくれている。


「ねえ。そういえばどうして美鶴ちゃんは貴子ちゃんをさん呼びなの? 珍しくない?」


 自分の話題になってドキッとする。恥ずかしいけれどちょっとだけうれしい。不思議な気分。


「店長がそう呼んでたんでそのまま定着しちゃった感じですね。珍しいですけど。貴子って感じしません?」

「まあ、なんか分かるかも。私も貴子さんって呼んでいい?」


 琥珀にそう質問されてとっさに頷く。


「も、もちろんです」


 その言葉を伝えた瞬間だった。テーブルの上に置いていたスマホが震えた。


「あ、すみません」


 すぐに画面を確認する。


『いま何してる? 遊び行かない?』


 学校の友達からの連絡。珍しいことではない。最近だと毎週のように遊んでいる。むしろ、珍しいの貴子の方だ。久しぶりの休日にセカンドダイス。それを心の底から楽しんでいた。


「貴子さん? どうしたの?」


 少しの時間だったはずだったけれど迷っていたのが気が付かれてしまった。


「友達からの誘いがあって……」


 今、断りますね。そう続けようとしたのだけれど、それは琥珀に阻まれてしまった。


「ちょうどいいじゃない。ここに誘わない? テーブルも空いてるし、ねっ。美鶴ちゃん?」

「いいですね。優太くんも人が多い方が楽しいでしょうし」


 琥珀の提案はびっくりするくらい貴子の中にはなかったもの。それに一緒になって盛り上がっている美鶴にも驚く。


「……ちょっと聞いてみます」


 とてもじゃないが、その場で断るなんてことができなくて、遠回しに断ってもいいんだよと言う気持ちを込めて返信するための文章を考えた。

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