2023/12/20

「そうそう! 上手だよ優太くん! あってるよ」


 九枚のタイルは3✕3で正方形に並んでいる。優太くんはそれを崩すこともなく、お題のカードと九枚のタイル間を視線が行ったり来たりしている。今ようやっと右上のタイルが揃ったところだ。四角が四つ集まって大きな四角を作っている絵柄だ。


 夢中になってる。


 貴子は感心していた。美鶴のいう通りだったからだ。優太がこんなに真剣にボードゲームに取り組むことはもっと先の事だと思っていたのに。いとも簡単にボードゲームを楽しむように仕向けた。


「美鶴さんすごいですね。優太くん、ほんとうにちゃんと遊んでる」


 優太を見ていた美鶴が顔を上げて、ちょっとだけテーブルから離れた。優太の集中しているところを邪魔したくなかったのだろう。貴子もそれに習って立ち上がった。琥珀が優太と真剣な顔をして一緒に考えているのを見ると微笑ましくなってくる。


「たまたまだよ。こんなに上手くいくなんて思わなかたし、割と事前に情報収集しておいたしね。これでハマらなかったらちょっとショックだったかもしれないんだ」


 ふたりを誘ったのが美鶴なのであれば確かに事前に情報収集をしているはずだ。優太でも遊べそうなボードゲームをいくつかピックアップしておいたのか。それでもナインタイルは貴子にはなかった発想だった。事前に情報を得ていてもたどり着いたか分からない。


「貴子さん。また難しく考えてるでしょ?」

「えっ」

「そんなに難しく考えなくてもいいんだよ。私は優太くんと一緒にいる時間がここ数か月で多かったしね。あとは前と一緒だよ」

「一緒ですか?」


 前というのは去年のクリスマス近くの事だろうか。あの時も美鶴にお世話になった。ひとりで遊ぶことに夢中になっていた貴子にみんなで遊ぶ楽しさを教えてくれた。


「私。楽しんでなかったですかね?」


 急に不安になってしまった。優太を楽しませようとしていたのに、貴子自身は楽しんでいなかった。優太の事ばかりを考えすぎていた。


「ちょっと緊張してたかな。琥珀さんの前だしね。気合入り過ぎちゃうよね」


 ちらりと琥珀の横顔を確認する。氷の上とはまったく違う優しい母親の顔。気に入られたいと思ったのは確かだ。なにせ憧れの存在になったばっかりの人。それを美鶴にバレていたのも驚きだ。


「私もね。琥珀さんに憧れるんだ。一緒だね」

「美鶴さんもそんな風に誰かに憧れることがあるんですね?」


 ちょっと意外だった。貴子から見た美鶴はいつだって自分を貫ていて、いつもしっかりしていて周りを見ている。完璧な人だと思っていた。


「えっ。そうだよ。だから一緒」


 一瞬だけ戸惑ったように見えたのだけれど、どうしたのだろう。


「優太。あと一枚だよ」


 テーブルのナインタイルがクライマックスらしく琥珀が声を張って応援し始めた。


「さ。あんまり気にせず楽しも」

「はい!」


 美鶴にはいつも助けてもらってばかり。この一年、ちゃんと成長できているか不安にもなる。でも、ちゃんと琥珀や美鶴みたいな大人になりたいとそう思った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る