2023/12/22

 どうしよう。貴子は周りに動揺しているのが気が付かれないよう沈黙したままひとり考え続けていた。


 友人からまさかオーケーを貰えるなんて思わなくて、心の準備する暇もなく、その時は近づいている。ボードゲームが趣味だなんて言ったことはない。単純に相手が知らないであろうことを趣味というのが気が引けたし、そんな遊び方を求めていないと思っていた。でも、ボードゲームカフェに誘ったと言うのに。なにそれっ。楽しそうと前のめりな反応を示してきた友人ふたりはもう間もなくセカンドダイスへとやってくる。


 ビルが若干分かりにくいので近くに来たら連絡してもらうようにはしているので、しばらくの間、スマホとにらめっこだったりもする。美鶴、琥珀、優太は一緒にナインタイルで遊び続けている。優太はすっかり夢中で繰り返し遊んでいるのだが、どんどんと早くなっていっているのも分かる。子どもの成長は早いと言うけれどちょっと油断できないスピードにも見える。


「貴子さん、緊張してる?」

「は、はいっ。だ、大丈夫です」


 琥珀が急に話しかけてこられて焦ってしまって全然大丈夫じゃない返事をしてしまった。


「勝手に盛り上がって誘ってなんて言っちゃたけどもしかして迷惑だったかな」

「い、いえ。そいういうわけじゃないんです。……実はボードゲームが趣味ってことを友達に話したことがなくて。だからなんだって言う話んだんですけど。どうしてだか不安なんです。同い年くらいでボードゲームが趣味なんて子いなくて……」


 知らないと言われるのが怖かった。何度も誘おうと思ったのに、踏み出せなかった。


「あー。なんか分かるかも。私もそうだったし、結局自分からは言えなかったなぁ」

「琥珀さんもですか?」

「スケートやってるってね。言えなかった。結構特別なものでね。スケートってだけでなんか特別感が出るのよ。それが嫌だった。テレビの中だけでしかみたことないし。みんな、なんとなく憧れを抱いてる。スケート教室とあるとね、先生に見本を見せてやれってみんなの前で滑らされるの。それが嫌だった。だって、普通に登校日なの。その日常を特別なものへと変えられてしまう気がしたの。でも、違った。全部私の勘違いだった。まあ、その瞬間だけは特別だったけどね。すぐに元に戻った。そしてその瞬間はみんな楽しそうだった。それでちょっと安心した。だからさ、貴子さんの友達もそんな難しく考えなくていいんじゃないかな」


 琥珀がしゃべり終えるのを合図にしたかのようにスマホが震える。近くまで来たという連絡だった。


「琥珀さん。ありがとうございます。ちょっと迎えに行ってきますね」


 貴子はそう席を立った。

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