2023/12/23

「それで。このコマが対象だから、ここに移動して。それで、このコマが次に対象になるからカードを一枚引いて……」

「あー。ねえ。貴子。そんな一気に言われても分からないよ。もっとゆっくりー」

「ボードゲームって思ってたより難しいんだね。ちょっと疲れてきちゃったかも」


 このゲームの箱が可愛いから、これが良いって持ってきたのはそっちなのに。貴子はそう思うけれど口には出さない。せっかくのセカンドダイスでの楽しい時間だ。そんなことでぶち壊したくはない。


 貴子も遊んだことがないゲームだったから、精一杯ルールブックを読みながら說明したのだけれど、ゲームの説明に時間を取られすぎた。だから、友人ふたりの気持ちも分かるのだ。こんなスタートじゃ絶対に楽しくならない。それは分かっているのだけれど、この雰囲気をどうにして変えていいのかも分からない。


 せっかく来てくれたのにな。


 助けを求めたいけど、琥珀も、美鶴も優太と遊んでいてこちらの相手をしている余裕はない。自分ひとりでどうにかするしかない。でも、その方法は分からないままだ。ここまで来てくれたんだから、やる気はあるはず。でも、最初っからつまずいてしまった。


「ねえ。どうしようっか」


 どうするって何がだ。疲れたと言っていた友人はつまらなそうにしてしまっている。もしかしたらもう飽きてしまってどこかへ行きたいのか。いけないそんなことにはさせたくない。


「じゃ、じゃあ。違うゲームにしよっか。簡単なやつもたくさんあるんだよ。た、例えばね」

「うん。ちょっと休憩したらねー」


 ゆっくりー。と言っていた友人はスマホを触りだしてしまった。段々とボードゲームで遊ぶ雰囲気ではなくなってきている。


 嫌だ。


 こうなりたくなかったからずっと誘わなかったのに。せっかく誘えたのに。楽しいとは程遠いところにいる。


 嫌だったら。どうするのだ。ちゃんと考えろ。そうしないときっと二度と友人たちとボードゲームで遊べなくなってしまう。


 琥珀ならどうする。美鶴ならどうすると必死になって考える。


『そんな難しく考えることなくていいんじゃないかな』


 琥珀はそう言った。


『事前に情報収集はしたしね』


 美鶴はそう言っていた。


 友人じゃないか。難しく考えることなく、事前の情報からふたりが好きそうなものをピックアップすればいけるかもしれない。ルール説明が簡単で直感的で分かりやすいものが良いだろう。あとは勝敗が決まるものよりもゲームと対決する協力ゲームの方が良い気がする。


 どんどんと考えがまとまっていく。それに当てはまるゲームは……。


 貴子はいつの間にか立ち上がってセカンドダイスの棚とにらめっこを開始した。

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