2023/12/24

「ねっ。これを遊んでみない?」


 散々にらめっこして貴子が手にしたのは薄くて大きい箱。ミクロマクロ:クライムシティだ。去年もここで遊んだ。あのときはひとりだったけれど、今日はふたりに説明しなくちゃいけない。


 でも説明することは多くない。大きな紙に緻密に描かれた絵。その中でお題で提示された事件を探していくだけ。悲惨な事件がほとんどだけど、可愛い動物が人みたいに生活している絵はデフォルメされていてそこまでの悲惨さは感じられない。


 そしてその絵がなによりも大きい。セカンドダイスのテーブルでも広げれば収まりきらないくらいだ。ボードゲームのやるテーブルだから普通のテーブルより大きめなものを用意しているにも関わらずだ。


 そして同じ人物(?)は時系列で描かれていてその人物を追っていくと事件前になにをしていたとか。事件後にどうやって証拠を捨てたとか。そういうのが追っていくと解明されていく。それを探すゲーム。みっちりと描かれている絵の中から特定の人物(?)を探すのは骨が折れる。でも、視覚的で直感的で分かりやすいハズ。


「あっ。うん。さっきのはおしまい?」

「いいよ。なんかそれも可愛いし」


 貴子は不安を振り払うように、できるだけ簡潔さを目指して。説明を始めた。


 結果。


「あっ。ここにいるよ、犯人みたいなの」

「えっ。じゃあ、これがその人じゃない? ってことはさぁ」


 ふたりが楽しそうに遊んでいる。貴子も一緒になって探してはいるものの、できるだけ邪魔をしないようにしながらも、ダレてしまいそうなところでは手伝うように意識しながら進めていく。同じシリーズでも去年遊んだのと違う物を用意してよかった。今遊んでるのは四作あるうちの二作目だ。去年は一作目で遊んだので、貴子としても新鮮に遊べている。とは言え、一作目を遊んでもとても覚えられるはずもない量なのできっと楽しめたのは思うのだけれど。せっかくだ。次を遊んでみたかった。


「ボードゲームって面白いのかもね」

「ねー。さっきのも気になってきたかも。説明書ちゃんと読めば分かるかな?」


 遊んでいる途中でふたりがそういい始めたのを見て貴子はこれまでに感じたことがないものが湧きあげていた。単純に嬉しいとはちょっと違う。なんだろ。でも、もっとこの気持ちを深く知っていきたいと思った。


「ね。続きやろうよ。時間はまだまだあるからさ」


 ボードゲームは逃げない。きっと友人もだ。そのためには貴子自身も楽しまなくては。


 やっぱりボードゲームは楽しいし、深い。その奥に何がるのかまったく見えないくらい。


 琥珀と美鶴がチラッと視界に入る。優太が新しいゲームに挑戦している。優太は難しい顔をしているが見守るふたりは楽しそうだ。


 私もあんな風になれるかな。


 密かな想いは秘めたまま。貴子はテーブルに置かれた大きな紙とにらめっこを始めた。

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