2023/12/15
それは
セカンドダイスに小さい子どもがいる。それも大人しくテーブルについて、遊んでいるのだ。遊んでいるのはスティッキーと言う名のゲームだ。確かに子ども向けに作られていはいるが流石に遊んでいる子どもが小さすぎて苦戦している。
まあ、でもその小さいながらの手で必死に頑張っているし、なにより楽しそうに見える。ルールで遊んでいると言うより、ゲームと必死に向き合っていると言った具合だ。周りの大人たちもそれを微笑ましく見守っているのだけれど、その大人たちと言うのが見知った顔だったので貴子からすると事件なのだ。
「あれ。貴子さん、お久しぶりです。よかったら一緒に遊びませんか?」
声を掛けてくれたのは
「う、うん。久しぶり。一緒に遊んでもいいんですか?」
だからなのか、言葉遣いも忘れてしまってつい変な敬語の使い方をしてしまった。
「あれ? この前、観に来てくれた子だよね。貴子さんって言うの?」
美鶴の隣にキレイなお姉さんがいる。先日見かけたばかりではあるが実際話すのは初めてだし、舞台化粧もしていたであろう大会とは違って大人しめのメイクは別人のようにも感じられた。でも、間違いなくスケートのお姉さんだ。
「私は立花琥珀って言います。こっちは息子の優太。よろしくね」
驚いて一瞬固まってしまう。あのお姉さんに子どもがいて、それが一生懸命遊んでいる子で、それが話しかけてくれていて。考えれば考えるほど驚きの連続過ぎて頭が混乱する。
「よ、よろしくお願いいたします。木宮貴子って言います」
「よろしく!」
琥珀の代わりに元気よくあいさつしたのは優太だ。その勢いで持っていたスティックが勢いよく引き抜かれてスティックをまとめていた輪っかごと倒れてしまった。
「あー。優太、倒しちゃったね。もう一回やる?」
「ううん。やらない。違うの!」
貴子がやってきたのが原因で倒させてしまって少しだけ罪悪感が生まれる。
「あの。ごめんなさい。私が話しかけたりしたから」
「あー。いいの、いいの。気にしないで。ちょっと飽き始めてたとこだったし、もともとそんなに長く続くとも思ってないしね。一緒にやるなら貴子ちゃんも一緒にボードゲーム選ぼうよ」
琥珀に話しかけられるたびドキドキしてしまう。だって仕方ない。あんなにカッコイイ人を初めて見たんだ。フィギュアスケートなんてテレビの中でしか見たことなかったけど生で見た琥珀の演技は迫力満点で一瞬で心を奪われてしまった。美鶴の応援に行ったのに、気が付けば琥珀の事ばかりを目で追っていた。そして、その日の様子を撮影した映像が動画投稿サイトに上がっていたので、何度も見た。再生数は貴子以外の誰も見ていないくらいの再生数だったから、みんな知らないのかもしれない。だって、あんなにすごい演技なのに、誰見てないなんて信じられない。
琥珀に一瞬で憧れを抱いた。その琥珀が目の前にいることに貴子はまだ衝撃を抑えられないでいた。
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