2023/12/16

 木宮貴子きのみやたかこは困惑していた。美鶴と琥珀と優太と四人で遊ぶことになったのだけれど、これまで培ってきたボードゲームの遊び方が一向に通用しない。三歳の子どもと一緒にボードゲームを遊んだ経験がなかったのもあるが、貴子が知っているボードゲームの展開とは似ても似つかない。


 貴子がやってきたボードゲームはルールを読み解き、勝ちにつながるために出来ることを考えて動く。初めて遊ぶゲームでも何度も繰り返し遊び熟達したゲームでもそれは同じ。


 でも、その貴子の常識が優太には通用しなかった。優太にとってルールは重要なものではないらしい。よく考えれば当然のことなのだけれど、ボードゲームを前にすれば万人が共通の想いになると思っていた貴子としては大きなことだ。


 まずルールとはなにか? という所を說明しても分かってもらえない。その点に関しては美鶴も琥珀も諦めている。そりゃそうだ。三歳の子どもに懇々とボードゲームのルールを説明したところであまり意味はない。楽しいと思えるところが違うのだ。どうやったら勝って、どうやったら負けて。そのやり取りが楽しいと思えるまできっともう少しだけ年月が掛かる。


 でも、だからといってなんとなく諦めたくはなかった。三歳だろうがボードゲームの面白さには気付けるはず。ルールがあってその中で知恵を巡らせて自分が考えうる最善の一手を目指す遊びを知ってほしいと思った。


 でも、その方法がまったく分からない。優太に遊べるのは簡単なルールのものがほとんど。先程まで遊んでいたスティッキーも、輪っかによってまとまれた棒の束を倒さずに一本ずつ抜いていくゲームだ。抜く棒がどこに干渉しているかを見抜いて正確に抜く必要がある。優太の場合は抜くものを適当に選んで抜いたら満足してしまう。それでは、ゲーム性もなにもなくなってしまうのだ。それは次がない遊び方。


 だからといって、優太にどうやってゲーム性を理解させ、みんなで楽しむ方法を教えてあげるにはどうしたらいいのだ。


「どうしたの貴子さん? なんかいつもみたいに楽しそうじゃないけど」


 美鶴が心配そうにしている。いけない。こんなことじゃあ、貴子自身がこの卓をつまらなくしてしまう。ボードゲーム好きを名乗っている以上、そんなことをするわけにはいかない。


「大丈夫です! 次はどのボードゲームにしましょう」


 そう。きっと優太にもちゃんと遊べるボードゲームがあるはず。次へ行こう。ボードゲームを探しに、貴子はセカンドダイスの棚を必死に探し回った。

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