2023/12/17

「ほら。このゴールドの鈴だけがくっつくようにこの棒を近づけるんだよ」


 木宮貴子きのみやたかこは必死に優太に說明していた。今遊んでいるのはベルズと呼ばれるボードゲームだ。これなら出来るかもしれないと半ば直感で選んだボードゲームだったが、意外と優太は気に入ったみたいに見えた。のだが……。


「えいっ」


 優太はベルがたくさん置かれたお皿に向かって磁石がついたオレンジ色の棒を思いっきり突っ込んだ。それを見て貴子は落胆する。


 ベルズは用意された鈴を磁石を使って取っていくゲームだ。ただしそこはボードゲームだ取り決めがある。鈴には四色あってゲームを始める前に自分が担当する色を決める。今回は優太がゴールドだ、貴子がグリーン、琥珀がパープルで美鶴がシルバーと最初に決めておいた。


 それぞれの色が同じだけお皿に乗っている。そこから順番にオレンジの棒。つまり磁石をつかって自分の色だけを上手に取っていかなくてはならないのだが、この時、他の人の鈴を取ってはいけない。取ってしまった場合は鈴を更に戻して自分の手番が終わってしまう。


 つまり優太が勢いよく磁石を突っ込んだってことは他の人の鈴もまとめてくっつけてしまったということで。ルールをまったく理解していない証拠だった。


「優太くん。それだとゲームにならないのよ。自分の色。今回だとゴールドを取らなくっちゃ。そんなに取っちゃっても全部もどさなきゃいけないの」


 そう優太に諭すように話しかけたけれど、当の本人はまったく聞いていない様子でたくさんとれたことに喜んでいる。


「ねえ。優太くん。これはゲームなんだよ。ルール通りにやらなきゃ面白くないでしょ?」


 言っても伝わらないことは分かっている。でも言わずにはいられなかった。


「ううん。たくさんくっつけたほうが楽しいよ。ほら!」


 とびっきりの笑顔で大量の鈴を付けた棒を自慢気に貴子に向けて差し出してくる。確かにそうだよね。たくさんくっついた方が楽しいよね。いやいや、丸め込まれてどうするのだ。これはボードゲームでちゃんとルールに則ったほうが面白いのだ。


「うん。そうだね。それはそれで楽しんだけどさ。ルール通りにやったらもっと楽しくなるんだよ」

「えー。わかんない」


 そう言って、取った鈴を全部、器用に外して、また鈴めがけて棒を突っ込んだ。


「ごめんね。貴子ちゃん。優太がいるとゲームにならないよね。よかったら美鶴ちゃんとふたりで遊んでていいのよ。私が優太と遊んでるから。ありがとね、一生懸命、遊ぼうとしてくれて」


 琥珀にそう言われても貴子は納得出来ない。優太にボードゲームの楽しさを教えるのは困難をそうだ。

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