2023/12/13
そこはありふれた表現しか出来なかったけれど、公園はキレイだった。それなりに大きな公園だ。入場料も掛かるし、歩き回るだけでそれなりに時間も掛かる。セカンドダイス閉店からだとそんなに見て周れないのでどうしたって駆け足になるけれど、それでも光の祭典は十分キレイだった。
「すごくないっ!?」
春もテンションが上がりきっている。勢い付けたまま春が駆け寄ったのはたくさんの番傘が光で照らされている日本庭園。派手な装飾がしてあるわけではない。番傘に光をあてて番傘の模様を際立たせているだけだ。それが淡い光とともに番傘本来の良さを引き出しており幻想的に見える。その前に春が立って俊彰の方を振り向いている。その表情は逆光でもはっきりと笑顔なのが分かる。
「ええ。キレイですね」
その言葉がイルミネーションに向けられているのか春に向けられているのか俊彰自身、区別出来なかった。続けて言葉がこぼれ落ちる。
「春さん。来年も見に来ましょう。もっとゆっくり出来る時間に。それとゲームマーケットもです。春も秋も。一緒にいきましょう。よければそんお先もずっと、一緒に行けたらいいなって思ってます」
「えっと……としくんそれって……そういう意味……なのかな?」
春の質問の意味が少し分からなくて、しばらく考えたあと。そういう意味に聞こえてもおかしくはない。
「どうでしょう。まあ、でもそういう意味じゃないです」
「なにそれ……おかしくない?」
春が少し拗ねている。そういうことにして欲しいみたいだ。でも、こんな曖昧なのは嫌だ。ちゃんと伝えなきゃ。
「ちゃんと言います。でも今日は何も考えてないのでもう少しだけ時間をください。もっとちゃんと準備したいです」
目をそらしそうになるのを必死に耐え、春の方をまっすぐ見た。半分くらい逆光で春の表情が分からなかったからでもある。でも、今だけはまっすぐ見ないといけない。そう思った。
「ねえ。じゃ……いつまで待てばいいのっ?」
春が息を飲み込んだ後に質問を吐き出した。そりゃそうだよなと思う。ここまで来て待ってくれだなんて都合がよすぎる。
「クリスマス会の後まで。それまでには必ず」
ボドゲ会の前にまた気まずい空気にはしたくないし、それまでになら心を決められる。そう思った。
「……としくん。それはちょっと先過ぎやしない?」
でも春は不満を抱いたみたいだ。当然だ。それは甘んじて受けよう。でも、それだけの時間が欲しいのも間違いない。
「まっ。いっかそれもとしくんらしいしね。これまで待ってたんだし、もうちょっとだけ待ってあげる。待たせてる分、期待度も上がるからね。そこんとこよろしく。あっ。違うか。その
わざわざお気に入りであろうフレーズに言いなおす春は笑っていた。いきなりじゃなくて。ちゃんと準備して。その笑顔をもっと長く見ていられるように。もっとちゃんとしなきゃ。それこそ春の隣にいても恥ずかしくない人になりたい。
「春さん。楽しみですね!」
「えっ! 何が?」
「クリスマスのボードゲームです! 絶対、楽しいものにしましょうね」
「うん。もちろん。でも、そのあとも……でしょ!」
その通りだ。きちんと気持ちを伝えるためにもう少しだけ頑張ろうと、光の中でひとり静かに拳を握りしめた。
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