2023/12/12
「えっと。キレイだね」
心なしか春が緊張しているように見える。珍しいことだ。少なくとも俊彰はその様子を初めて見る。だけど、俊彰も同様にド緊張している。いつもと何が違うのかは自分でも全くわからない。
イルミネーションがキレイだと言ったのは商店街の話だ。目的地の公園まではまだもうちょっと距離がある。
「商店街もこんなに装飾されるんですね」
普段はどうしたって足を運ぶ機会も少ないし、賑やかな印象とは程遠い商店街だ。けれど、今日の商店街はとてもキレイだし、目に焼き付けておきたいと思える。それはきっと春が隣にいるからだ。
おかしいな。そんな機会はこれまでだって何度もあった。これが初めてじゃない。一体どうしてしまったのだろう。インフルエンザの後遺症でも残っているのか。妙に緊張するし、なんならドキドキが止まらない。
「うん。こんな光景知らなかったな。誘ってくれてありがとね、としくん」
聞きなれた春の声。いつもは声自体が跳ねているように聞こえるのに今はなんだか大人しい。街全体がそういう雰囲気に染まっているので春も影響されているみたい。そして今日何度目か分からない心臓の高鳴りを確かめながら着実に目的地に近づいている。
「いえ。こちらこそ、一緒に行ってくれてありがとうございます。公園はもっとキレイなんですよね」
どうしよう。会話は続かないし、これから自分がどうしようとしているのかも分かりやしない。いつも通りなのにいつも通りじゃない。それはきっと春との関係がちょっと変化してしまったようにも思える。それは告白すると決めた心がまだ俊彰の中でくすぶっているから。
告白するかどうかはまた今度だと思っていたのに。することを決めたことで俊彰の中で明確に意識してしまっているのだ。嫌われたくないとか、拒否されたらどうしようとか、これまで気にならなかったことがいちいち気になってしまう。
あれ? でも、であればどうして春も同じように緊張しているのだろうか。
「あ、あの春さん」
「は、はい。なんでしょう」
やっぱりおかしい。いつもの春じゃない。
「もうすぐ着きますね。公園」
「そ、そうだね。もうちょっとだよ、公園」
なんだかギクシャクしている春を見ていたら、面白くなってきてしまった。
「公園のイルミネーション楽しみですね」
「きっときれいだよ。公園のイルミネーション」
「ぷっ。さっきからなんですかその繰り返してくるやつ」
「えっ。なにってとしくんが妙に緊張してるからなんだかこっちも身構えちゃって……それに千尋が変なこと言ってたからそれもあって。それに! としくんが悪いんだよ。ゲムマ行けなかったくらいで妙によそよそしくて、きっと私が夜遅くまで連れまわしたせいだし。としくん、あんなに楽しみにしてたのに行けなくて、悔しかっただろうなとか、としくんいないのに楽しみすぎるのも悪いなとか。考えてたら、なんか、こんなんになっちゃって。さらにはとしくんに笑われるなんて、サイアク。私なにやってるんだろうね」
せき止めていたものが一気に流れ始めている。春はそのことを自分で気が付いていないみたいにも見える。そうするとせき止めていたのは俊彰なのかもしれない。それは申し訳ないことをしていた。
「春さんがいたから僕は楽しく過ごせてるんですよ。そんなの気にしないでください。いつもありがとうございます」
冗談交じりにちょっとだけ丁寧にお礼を言って頭を下げた。
「なにそれ。急にとしくんばっか余裕があってズルい」
「まあまあ。ほら。公園着きましたよ」
夜だと言うのに入口からして光が溢れている。
「わぁ。ねっ。中はもっとすごいんでしょ。ほら、行こ」
さっきまでのことはなんのことやら、すっかりいつもどおりの春を追いかけるように公園に入った。
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