2023/12/06

「今日は来なかったね。春ちゃん」


 俊彰が誘われた返事をするつもりだったのを知っている店長は少しワクワクしているように見えた。昨日も智也先輩と散々店長に苦言を呈したのに、ちっともこりていない。ひとの恋愛事情に首を突っ込んで何が楽しいのやら。


 でも、店長の言う通り春は今日、セカンドダイスに現れなかった。もちろん連絡先も知ってはいるが、ちゃんと話をしておきたくて。それはなんだか違う気がしている。


 とは言え、このまま待っていても埒が明かない。大人しく連絡しなければならない。もう週末の話だ。返事を遅らせるわけにもいかない。


 店長に許可をもらい智也がスマホを取り出した瞬間だった。画面に通知がポップアップする。それも春からの連絡だと浮かび上がった文字からすぐに推測できた。


 すぐさま内容を確認するためにロックを解除する。


「店長。僕、もう上がっていいですか?」

「ああ。もちろん」


 何もかも分かったような顔をしている店長にもやっとしながらも急いで準備すると走り始める。


『今日のバイト終わったかな? この前の返事をききたくて。ビルの下にいるんだけど。今から会えるかな』


 春からのメッセージにすぐさま、今行きます。とだけ返したのだ。


 なんでわざわざセカンドダイスまで来てくれたのか分からいけれどいるのであれば行くしかない。


 セカンドダイスはビルの四階。エレベーターもあるが利用者が多く、従業員は階段を使うように言われている。その階段を駆け下りる。何度も折り返しながら、なんと答えるか必死に考える。なにせ急なことだ。考えていたことも吹き飛んだ。


 息を切らしながら駆け下りた先に、コート姿の春がいる。随分と寒くなってきたのを最近よく実感する。通行人はそれなりに多いところで寒いのか手に息を吹きかけてている。


「お、お待たせいました。ごめんなさい寒い中で待たせてしまって」


 呼吸が苦しい中でなんとかそれだけ絞り出す。


「あっ。としくん。ごめんね急に呼び出したみたいか感じになって。それでどうかな。ゲームマーケット」

「行きます。行かせてください」


 春の表情が弾けたかのように明るくなる。


「ねっ。カタログ持ってきたからさ。どこに行きたいか教えてよ。今から考えておかないと、行きたい所がたくさんあるから回りきれなくなちゃう。ご飯まだだよね? その辺のファミレスでいいよね? いこっ」

「あっ、ちょっと待ってください!」

「えっ。あっ。もうご飯食べちゃった? カフェにしよっか?」


 違う。そう言うことじゃなくて。言わないと。ゲームマーケットの帰りに時間をくださいって。


「あの。ゲムマ当日なんですけど。帰りに少しだけでいいので春さんの時間をいただけますか」

「どったの。かしこまって。もちろんいいよ。何かあるの?」

「まあ。あると言うか。でもここでは言えないって言うか」


 春はよく分からないといった具合で首を傾げている。


「そう? 今日はファミレスでいいんだよね?」

「はいっ。大丈夫です」


 とりあえず。約束を取り付けられた。それだけでも一歩進めた。俊彰はそう思うことにした。

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