2023/12/08
嘘だ。
俊彰は今日、帰宅してからずっとその思いを取りつかれたように頭の中で反芻している。信じたくない。信じられない。
インフルエンザ陽性。それが今日の診断結果だ。
朝起きたら身体がだるかった。嫌な予感がして、熱を測ったら38度超え。すぐに病院にそのこと伝えた。専用入口を案内され、鼻に綿棒を突っ込まれ。しばらく待っていた俊彰はただでさえ具合が悪くて気分が落ちていたのに、検査結果を聞かされたのだ。
家にどうやって帰ってきたのかも分からない。ボーっとしていたのは確かだ。セルフレジのコンビニを選択し、必要そうなものを買い込んで家に着いた。
そして、そのままベッドにダイビングした。
大学に進学するときに始めた一人暮らしの部屋に物は少ない。自炊をするわけでもなく冷蔵庫も保存が効くものしか入ってはいない。ワンルームなのが幸いして身体がどれだけだるくても手が届く範囲に物は揃っている。でも、そんなのは気休めにしかならないくらいに身体は重く頭は痛い。
当然、ゲームマーケットもいけないし、春への告白の計画も水の泡だ。
信じたくない。信じられない。嘘であってくれ。
横になって割れそうな頭の痛みの中で、ずっとそんなことを考え続けてしまう。いっそのこと眠ってしまえれば楽になれるかもしれないのに、具合の悪さにそれも叶わない。
ひとりベッドの中でうなされ続けるだけ。
一人暮らしを始めてこんなにひとりが辛いと思ったことはない。誰かが隣にいてくれるだけであんなにも安心したのだとついぞ思い始める。
ああ。弱ってるな。自分。それがよく分かる。
スマホが震えた。正直手に取りたくはない。でも、よくよく思い返せばセカンドダイスへ連絡もしてないし、春にも同様だ。どちらでもいい。伝えておかなければ迷惑をかけてしまう。
「も、もしもし」
『あっ。としくんかい?』
店長の声だ。
『そろそろ時間なんだけど、姿が見えないから心配になってね。いつも時間前に来るもんだから』
その言葉に、泣き出してしまいそうになる。いや、もしかしたら泣いていたのかもしれない。
店長になんとか、容体を伝える。連絡することすらスマホが震えるまで頭から消えていたのだと思うとさらに情けなくなってくる。
『としくんて一人暮らしだったっけ。本当は行ってあげたいんだけど……』
「いえ。大丈夫でうす。店長にうつすわけにもいかないので」
店長を巻き込んでしまったらセカンドダイスも閉めなくてはならなくなる。そんな迷惑はかけられない。
『ごめんよ。ひとりで辛いだろうけど。頑張るんだよ』
店長の言葉は身に染みる。
「はい。ありがとうございます」
俊彰の声は震えていた。それが涙なのか、具合の悪さなのかは判断できなかった。
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