2023/12/10

 インフルエンザから復活した俊彰は、なんとなくの日々を過ごした。セカンドダイスへのアルバイトも身が入なかった。店長はまだ本調子じゃないんだと、心配してくれたが、そんなことじゃない。もっと俊彰自身の問題だ。


 春の姿も見ていなければ連絡もない。クリスマスのボドゲ会が近づく中で決めなきゃいけないことも迫っている。とりあえずは遊ぶボードゲームの選定。プレゼントに何を用意するのかも決めないと。そんなことを考え始めてもすぐに、どうでもよくなってしまう。


「としくん? 今日も調子悪いのかい?」


 店長だ。バイト中にまた考え事をしてしまった。申し訳なくなってくる。もういっそのこと帰った方が迷惑をかけないんじゃないかとすら思えてくる。そのことを店長に伝えようと思ったのだけれど、うまく言葉が出てこない。


 そんな俊彰の様子を心配そうに見ていた店長だったけれど急に何かを思い出したように表情が跳ねた。


「そういえば、後で春ちゃんが相談があるからお店に寄りますって言ってたよ」


 突然出てきた、春の名前に今度は俊彰の心が跳ねた。


「そ、そう……なんですね」


 どうしていいのかちっとも分からない。


「春ちゃん、としくんのこと心配してたよ。連絡してないんだって?」


 出来るはずない。あれだけ楽しみにしていたゲームマーケットを体調を崩して欠席。なんて連絡していいのかいくら考えても気まずくてメッセージを送る指が何度も止まった。


「してないです」


 正直に答える。


「そうか。としくんは春ちゃんのことがよっぽど好きなんだね」


 店長がまた訳のわからないことを言い始めた。そうでないから動けなくて参っていると言うのに。


「なんでそうなるんです?」


 言うつもりもなかったのについ口から出てしまう。生まれた感情を抑えられなかった。


「なんでって、春ちゃんのことが好きだから、何を考えているのかとか、どうしたらいいんだろうかって、必死に考えて動けなくなってるんだろう。それって相手のことを想ってなきゃ起きないことだからね。だからとしくんは春ちゃんのことが少なくとも大切な人ってことだよ」


 本当にそうだろうか。結局は俊彰の問題だと思っている。一度タイミングを逃したくらいでこんなにも落ち込むとは思っても見なかった。それでも、春のことが大切だとそう言えるのか。


「ま、春ちゃんが来るまでもうちょっとある。じっくり考えることだね」


 言いたいことだけ言って店長は仕事に戻ってしまった。いや、仕事中なのにそんな話をさせてしまったことに罪悪感を覚える。やっぱり帰ったほうがよかった。


 でも、帰ってしまったら春に会う機会を失う。


 それでいいのか。このままズルズルと春との気まずい時間を過ごしても。それで後悔しないのか。


 いや、絶対に後悔する。


 ちゃんと話そう。そして謝ろう。告白は一旦、横に置いておく。一個ずつ順番にやらないから自分でも混乱しているのだ。ひとつうつ春と向き合って行こう。そう決めた時、お店のドアが勢いよく開いた。

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